百年以上も世界中で読み継がれてる名作に今更言うのもなんですが、文句なしの超傑作
 想像以上でした。新年1冊目から今年のベスト1はこれしかないだろうという勢いです(←気が早いです)。これは残る。たぶんもう1世紀経っても読み継がれてると思います。情報過多の時代に混乱しがちだからこそ、一つ普遍的なものが描かれてる「残ってる」古典を読んで自分の「軸」を作っていく栄養にしてみてはと、そんな文脈で忙しい現代人にも立ち止まって読み返してみて欲しい一作。まじ、アニメなんかで漠然と筋だけ知ってるとか、子ども向けにエピソードが抜粋されてる簡易版を子どもの時読んだ……くらいの人は文庫や原本で最初から最後まで一度じっくり読んでみては。僕は久々に心底泣けて感動しましたよ。
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 あえて言うならテーマとして描かれてるのは「幸せ」。もちろん、それぞれに魅力的な四姉妹の日常をユーモアたっぷりに物語として描いた部分がメインで、そんな日常の中に紡がれる物語、そしてその折々の登場人物の心情に、今なお共感して楽しめるというのがこの作品の「面白い」部分で今なお世界中で親しまれている要因だと思うんですが、そんな日常の物語を描きながらも、「幸せ」について深く優しく語りかけているというような、「深み」の入った作品でもあります。上巻後半の四姉妹一人一人を主人公に立てて、楽しく優しい日常部分を描きながら、最後に主に母のマーチ婦人との対話を経て「幸せ」について気づきを得る、第六章「ベス『美の宮殿』を見いだす」、第七章「エーミーの屈辱の谷」、第八章「ジョー、魔王に会う」、第九章「メグ、虚栄の市に行く」だけでもうヤバいくらい感動ものだったんですが、下巻の後半、それらの日常パートを下地にして、それを超える大感動の泣きパートクライマックスが訪れます。父が戦場で病気という知らせを受け、母が病院へと出発という非日常に入り、悪いことが重なるように猩紅熱に冒されるベス。この苦境、試練に姉妹達が如何に立ち向かうのか、そして最後に前半の日常部分に回帰するように気づく「幸せ」について。是非とも直に読んで目撃して欲しいです。

 以下、四姉妹一人一人についてそれぞれ語り。

●メグ

 「私たちは働くことなんかなんとも思っていませんし、時期がくるまで待つつもりですわ。貧乏なんか少しもこわくありません、今までだってそれでしあわせだったんですもの、これから先だって私はしあわせだと思います、あの方が愛してくださるし、私も――」

 メグだけが家族が裕福だった時代を経験してることもあり、物語序盤ではメグはお金持ちのセレブな生活にちょっと憧れを持ってたり、何かと物質的な欲望も強めに持ってる登場人物だったんですが(この辺りが人間味のある17歳って感じでいいんですが)、第九章「メグ、虚栄の市に行く」を経て徐々に考えが変わっていき、最終的にはブルック先生との婚約という帰結を経て、「幸せ」はお金持ちかどうかだとか物質的な豊かさには必ずしもよらないという作中の帰結を担う登場人物になってます。最後の試練として現れる結婚反対のマーチ伯母さんに対して語る少女のありったけの幸福論が感動モノ。
 よきお姉さんキャラとしても魅力的な登場人物でした。破天荒なジョー対比されるようにペアでちょっぴりコンサバティブな淑女という感じなんですが、その性質の違う二人が登場することで(しかも二人には並々ならぬ絆がある)物語の魅力が倍増したと思います。

●ジョー

 「やっぱり私、本を書くだろうと思うの」

 まだ色々読み出したのは今年に入ってからなので強く言うのは憚られるんですが、おそらく少女小説史に残る名ヒロイン。四姉妹にはそれぞれ実際に四姉妹だった作者の姉妹にそれぞれモデルがいるんですが、ジョーは作者のルイザ・メイ・オルコット当人がモデルに当てはまるだけに、物語中一番イキイキと行動し、出番も一番多いです。Vividで独立独歩で奇想天外。文章の才能と物書きになる空中楼閣(夢)を掲げて突っ走ります。一方で、だからこそ第八章「ジョー、魔王に会う」で見せる謙虚な反省や、試練の時の弱さもが魅力的。このキャラの魅力はまだ僕には語り尽くせません。『続・若草物語』をはじめ若草物語のシリーズを最後まで読んでから、作者のオルコットにも絡めながら僕なりのジョー論みたいなのを書けたら面白いだろうなと、今の所そう思わせられてしまうほどこのキャラにはやられました。

●ベス

 「あの小さなピアノをいただいてから、私はもうほしいものないのよ。私ただ、みんながいつまでも丈夫でいて、いつまでもいっしょにいられればいいと思うの、それだけよ」

 聖女

 ・゚・(ノД`)・゚・

 ひたすら泣かせてくれました。序盤では老ローレンス氏と絆を深めていく理解過程を描いた話が良かった。はにかみやのベスが振り絞る勇気、そしてピアノが弾きたいという思いに導かれてなされる本当にささやかな自己主張。
 基本的にはひたすらに謙虚で他者を尊重する少女として描かれます。やっぱり聖女ポジションの登場人物なんじゃないかなぁ。後半、猩紅熱で倒れた時に、姉妹達をはじめ、関わった人全てがベスの存在の大事さに気付くくだりにやられました。有名作品なんで続編での結末を知ってるのがつらい。このキャラも少女キャラ永久欠番です。

●エーミー

 彼が行ってしまうと、エーミーは小さなチャペルに行って、夕闇の中にすわって、さめざめと泣き、悲しみに胸を痛ませながら、ベスのためにお祈りをささげた。そしてあのやさしい小さな姉を失うことになったら、トルコ玉の指輪を百万もらったとて、なんの慰めにもならないのだと心の底から思ったのである。

 特に成長物語が顕著だった登場人物。最初の方は我が強くてそれこそまだまだ未熟な子どもとして描かれてるんですが、第七章「エーミーの屈辱の谷」や、一家の試練の後の母との対話などを経て、利己主義的だった子どもが他者を優先して考える淑女へと成長し始める様が物語として描かれます。その時大きな役割を果たすのがベス。ベス−エーミーのペアは可愛くて、温かくて、泣けて最高です。四姉妹の中にもそれぞれ2人1ペアで意味があるペアがあるんですが、年上ペアのメグ&ジョーと、年下ペアのベス&エーミーの関係も、姉妹モノ永久欠番という感じ。

●ローリー

 「僕がいる、僕につかまりたまえ、ジョー」

 四姉妹じゃないけど主要子供登場人物ということでローリーも。引きこもりがちだった所から、ジョーとの出会い、マーチ家との交流を通して徐々に持ち前の明るくてちょっと突飛でユーモアがある様が発揮されていく下りが魅力的。そしてマーチ家と、ジョーとの交流で深めた絆が爆発する引用部分の台詞のシーンが涙。ローリー、男です。
 ジョーとの関係もあくまで友情的なのも魅力。深く続く男女の友情もある。そう思わせてくれるジョー&ローリーです。

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 何度となく読み返して長く付き合っていくであろう作品なので、初めて読んだ感想としてはこの辺りで。


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