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 ここ数巻特に顕著な、サブタイトルを1冊の主題に絡める技が今回も巧な最新刊です。マリみてのメイン物語である祐巳物語の進展部分だけじゃなく、細かいコメディパートでも大技炸裂で楽しめた200P弱でした。
 以下、「続きを読む」で、相変わらずの長い(笑)ネタバレ感想です。
 ◇

 珠玉の関係性発展物語の『マリア様がみてる』。その関係性が発展していく段階の一つの帰着点に相互理解状態があって、今まで数々の姉妹(スール)間、登場人物間でその相互理解状態に達するまでの物語が描かれてきたんですが、今回はようやく前巻から本格的にスタートした主人公の祐巳とその妹候補である瞳子との間の関係性発展物語の途中経過まで……といったお話。

 サブタイに入ってる「くもりガラス」に象徴させて、お互いの関係性の度合いを文芸風味に表現しておりました。ざっと一覧にしてみると、

1.窓の曇りをお互い側からぬぐい去って、お互いの顔がはっきりと見える状態=相互理解状態(この時がロザリオを渡すチャンス!(笑))

2.こちらからは窓のくもりをぬぐっても、あちら側からはぬぐってくれず、相手の顔は見えない状態=相手の心情、環境が見えていない状態

3.強引に窓を開け去って相手側に侵入する行為=相手の心情、環境をこちら側から自分解釈だけで判断し、勝手に相手側に侵入してしまう状態

 ってな感じでしょうか。後ろの方にいくほど、作中ではダメな行為となっていきます。

 で、今回は物語中のほとんどを2の状態で過ごして祐巳が悶々として、最後に、とりあえず3だけはダメなんだと気付いた所までが描かれた感じです。じゃあどうするんだ?というのは続巻の緒雪先生がつける道筋に期待するしかないんですが、P58あたりで、瞳子の話題が出たときに、

 今どのあたりかと窓の外を見てみれば、ガラスが白く曇って、外の景色はぼんやりとしか確認できなかった。

 と、外の景色=瞳子の内面という象徴表現が入ったように、今巻の大部分を2の状態で過ごしてた祐巳が、柏木邸の前のラストシーンで、とりあえず3だけはダメだ!という気づきを得たことで、ラストの一文、

 ガラス窓に、午後の日差しがまぶしく反射していた。

 という感じで、まだガラスの向こう側の表情は見えないんだけど、そこにかかるものが「くもり」から「日差し」というプラスイメージなものに変わることで、ほんの少し、小さい一歩だけどレベルアップして微かな希望が持ててきたことを表現して締められているのは、相変わらず残留感があっていいなと思いました。

 前巻『未来の白地図』での祐巳が瞳子にロザリオを差し出すシーンが、まさにダメな3の状態だったんですよね。祐巳側からの気持ちだけで、瞳子のその時の心情、環境(くもりガラスの向こう側の表情)は確認できないまま、突っ走ってロザリオを差し出してしまった。それゆえの玉砕。今巻ラストでまた同じ失敗をしそうになるんですが、そこは思いとどまって少しだけの成長、関係性発展物語の微かな前進。それが描かれたのが、祐巳−瞳子のメインパートでの今巻の主眼だったと思います。ちょっと気づきを得るだけで丸1巻です。祐巳−瞳子の物語はそうとうじっくりやってます。もう、現在のメインストーリーなんでこれは腰をすえてじっくりやって欲しいです。

 それにしてもラストシーンは結構痺れましたよ。前巻で柏木さんが「覚悟」という言葉を使ったので、普通に少年漫画などではポジティブに描かれる「覚悟」だけに、ついつい「覚悟」を決めて柏木さんに話を聞く……という風にヤマ場を持ってくるのかなと想像してしまっていました。それが、そこを逆にとって、覚悟を決めたからといって、相手側を尊重せずに踏み込むのはどうか?という着地を見せました。相手に自分の気持ちを押しつける覚悟なんて?って感じで「覚悟」の上の行動を全肯定はしません。どちらかというと、相手尊重>覚悟という感じ。自分判断のみで押しつけない、土足で踏み込まない、これがどれだけ大事かと、改めて実生活に生きる一読者としても気付かされた感じ。個人的に覚悟完了で突っ走りがちなので、よい教訓になりましたよ。

 さて、サブタイ通り、くもりガラスの向こう側の瞳子の気持ち、事情は一貫して祐巳にも読者にも伏せられたまま進行し終了したという構造を持つ今巻。なんとなく、志摩子さん伏線の時の持っていき方に似ています。祐巳視点で、読者に志摩子さんがいずれリリアンを去らなければならないような何か抱えてることだけボンヤリと明かしておいて、「銀杏の中の桜」、「ロザリオの滴」あたりで志摩子さんの気持ちが明らかにされるパターン。今回も白地図にまつわる未来への絶望、志摩子さんに質問した将来問題といった漠然とした情報だけがボンヤリと明かされてるという状況です。これは、解決編の瞳子視点のエピソードひとつ大きくくるんじゃないのかなぁ。視点の切り替えが巧なのがマリみてのスゴイ所だよなーと僕は思ってるんですが、今回は珍しく一貫して祐巳視点で、全て祐巳側から見た世界(だからラストシーンの気づきが生きるんですが)、一方で瞳子視点は『イン ライブラリー』収録の「ジョアナ」以来描かれておりません。この辺りで瞳子視点のエピソードを描いて、まだ伏せられてる可南子と仲良くなった経緯なんかも含めて解答編を描いてくれたら楽しいと思うのだけどどうか。

 ああ、祐巳−瞳子の不和解消エピソードはカタルシス大きそう。二人揃って今回出てきたお稲荷さんに油揚げ持ってお参りに来る場面が早く読みたいですよ(このイベントはアリじゃない?瞳子ちゃんと仲直りできますようにって祐巳お願いしてたし。わざわざ祐巳−祐麒の姉弟イチャイチャイベントのためにこのエピソードを入れたにしては意味深な初詣シーンだと思うのですが)。

 以下、今巻のピコポイント↓

◇祐巳−祥子さま関係の残る課題

 「お姉様に限っては」とか「去年の祐巳の年賀状を模した祥子さまの年賀状」とか「二人だけでイチャイチャトーク」とか、極めつけは、

 お姉様の部屋と仲間の部屋は、確かに、もう何も入らないほどパンパンに満たされている(P148)

 といった感じで、スタートしたばかりの祐巳−瞳子関係に比べて、こちらの祐巳−祥子さま関係はもはや盤石なような印象を今巻からは感じます。だけど、まだ、ここ数巻で提示された、「柏木さんは気付いてる『祥子さまとの関係における本質的なモノ』を祐巳はまだ気付いていない」という伏線が残ってるんですよね。この伏線の解消エピソードがどう描かれるのかは今の所予想できないです。祥子さまの卒業に合わせて描かれれば祐巳−祥子さまの出会いから始まったマリみてという作品的には大団円という気もしますし、前巻で明らかになった「祥子さまリリアンに進学」展開を考えると、この課題は祐巳の3年次編に持ち越しというのも考えられます。とりあえず、今回は磐石っぽいけど、まだ伏線あるよというのが通の読み方ということで一つ。

◇祥子さまの課題、一つ消化

 この祐巳−祥子さま関係に残る伏線消化へのワンステップなのかどうか、今巻にて祥子さまと柏木の婚約が解消。『ウァレンティーヌスの贈り物(前編)』の「びっくりチョコレート」のP127にて聖さまが語っていた祥子さま評、

 「自分の中の多くを語って、それを否定されるのが怖いタイプ。柏木とのことだって、依然うやむやにしたままでしょ。あの子はね、自分がそうしていい場所をわきまえて威張っているの。この人の前だから自分を出しても大丈夫、って。結局自分に自信がないんだね」(聖)

 の部分をようやく課題クリア。祥子さまの成長物語も入ってるのがマリみてなのです。第1巻の温室のシーンに代表されるように、あの頃は祐巳の前でしか自分を出せなかった(蓉子さまなどもいますが)祥子さまが、今回ついに、柏木、融小父様、清子小母様、山百合会メンバーの前で婚約破棄を宣言。祥子さまの成長がかいま見えたワンシーンです。オチ付でしたが。確かにそんな昔のことに責任もてません。

◇小笠原家の謎

 「さーこは私なの」(清子小母様)

 これも、いつか明らかになる伏線だと個人的には思ってるんだけど、小笠原家の家族関係は、本当に融小父様が2号さん3号さんを囲ってるネガティブチックなものなのか?というトピック。今回も融小父さんの2号さん3号さんについては伏せられてるし、今回の「祐巳とさーこ様勘違い」エピソードを含め、時折挿入される、清子小母様と融小父さんには確かな愛が残ってるかのような描写。実際に2号さん3号さんがいるかはともかく、祥子さまの父母の関係も、最終的には肯定的に回収されるというのが僕的な予想。「祥子さまを不幸にした家庭環境」なんてしこりを残したまま終了するのはユートピアエンタメのマリみてらしくないですよ。

◇乃梨子−祐巳のショートストーリー決着

 瞳子に関して無自覚に接する祐巳に乃梨子が軽い反感を覚えるというショートストーリーが近巻では描かれてたんですが、今巻の「寄り道と道すがら」での電車内トークにてこのショートストーリーは着地。まあ、実際祐巳が本格的に瞳子を意識しだしたのは前巻からなんで、そんなに乃梨子が謝る必要はない印象でしたけどね。でも、そのあたりにちゃんと折り合いをつけようとする乃梨子が好き。

◇十人十色

 目玉焼きに何をかけるか人それぞれ(めんつゆエピソード)、どう食べるかも人それぞれと、最初の読切であった「銀杏の中の桜」が仏像好きもマリア像好きも人それぞれに両方魅力的……と着地した感じで、十人十色をトピックとしてさりげなく描いてた部分だと思います。相互理解ストーリーである以上、避けられない要素として、この十人十色というのをマリみてでは繰り返し描いてますよね。

◇今回のコメディ要素

・祐巳の表情をおかずに苦手なウニを食べる祥子さま
 祐巳ちゃん食べ物ネタは好きです。
・人間双六
 女子校でデート券かけて宝探しとか、前巻のツイスターゲームとか色々あったけど、これもコメディ要素としてかなりの大技です。緒雪先生の発想はたまに飛んでて好き。
・布団で泳ぐ祐巳
 あー、私もやったことあるわ、という人多そう(^_^;

◇山百合会メンバー、十人十色の活躍

 着付けや百人一首で魅せる祥子さま&志摩子さん、「地図が読める女」で活躍の乃梨子、単独料理ショーで魅せる令さまと、十人十色の活躍を魅せます。
 よ、由乃だけ見せ場がない!(←驚いたように)。よ、由乃もやればできる娘だと信じてますよ!

 ◇

 と、今回の感想はこの辺りで。祐巳−瞳子ストーリーは長い話になりそうですね。じっくりのんびり味合わせてもらう心持ちで次巻を待ちますわ。

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→作中1年前の「長き夜の」を彷彿させる「くもりガラスの向こう側」発売に重ねて「長き夜の」のドラマCDを発売したりと、「マリア様がみてるプロジェクト2006」の商業戦略は上々です。「Answer」も収録というのも、この前のコバルトの読切の「黄色い糸」が「Answer」の裏だったのを受けていて上手いです。

ドラマCDシリーズ「マリア様がみてる 長き夜の」
TVアニメーション マリア様がみてる~春~ ファンディスク 1 紅薔薇
TVアニメーション マリア様がみてる~春~ ファンディスク 2 黄薔薇


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