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 「慣れてる場所にしがみついてるのは、おバカだと思う?」(未来)  

 お嬢様学校からしもじもの学校へと異文化トリップしてきた未来が、今度はアメリカから日本という異文化へとトリップしてきたバートさんと知り合って……みたいなお話。グローバル化が今ほど顕著じゃなかった時代に書かれた少女小説の中に、近年の異文化交流ものの先駆けを見ましたよ。
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 小津の映画の世界に憧れて日本までやってきたバートさんと未来が、日本映画ゆかりの地をショートトリップするくだりはなんかしみじみ。研修で海外に行った時に現地の人に地元案内してもらった時のことを思い出したよ。

 そのショートトリップの最後のシーンが引用部分の「異文化に飛び込むこと」についての二人の会話なんですが、ここではバートさんが「映画を見るのは楽しみたいから、だったら自分から映画の世界に飛び込んでいったらいいじゃない」みたいなこと言って、映画という非日常へのトリップを自分の日本行きの異文化トリップと重ねて、むしろ、異文化に出かけていくことはイイこと、楽しいことじゃない、みたいな結びなんだよね。この下りが、当然お嬢様学校でありかつ自分のホームである華雅学園に戻るか、自分にとっては異文化だったのだけど、1巻の物語を通して好きになり始めた森戸南女学園へと進学するかで迷ってる未来の悩みにかかってくる訳で。このシーンだけ見るとバートさんの言葉にひかれて異文化だった森戸南女学園に進学しそうなものなんですが、まだまだ未来のこの物語は引っ張る感じ。まだ本人の本意が明かされないまま情報だけ未来に入ってる、杉丸さんは華雅学園を受験するつもりだという伏線もあるしね。

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 全体としては、ボートに乗るためには懸垂ができるくらいの筋力が必要だと分かった未来が、鉄アレイで筋トレして少しづつパワーアップするという、色んな意味での成長物語。途中で上で書いたバートさんとのイベントなんかもはさみつつ、色々と内面的にも成長していく未来と、物理的筋力的にも(笑)成長していく未来とがシンクロして綴られる様はステキでした。特に最後のイベントでちゃんと筋力の方の話も回収されてるのがステキ。重要な要素として筋トレシーンが挿入される少女小説て。ジャンプ漫画の修行パートじゃないんだから(笑)。

 それでも一番ステキなのは中盤の仲間とボートに乗って夏休みを過ごすか、華雅学園再受験を目指して夏期講習に通う夏休みを過ごすかで未来が葛藤するくだりかなぁ。日本中の少年少女が一度は通る悩み、「受験」が物語の中の大きなポイントになってます(しかもこの物語が書かれた時代は今よりも受験戦争が厳しく、また、受験の勝者=成功者という価値観も強かった時代だと思われる)。結局作中ではカッコいいお兄さん(朱海さん)が導いてくれてボートを取る方になびきますが、これってユートピア的だよね。青春時代の夏を自分の好きなことを優先して過ごす。できそうでできないことだからこそ、これを読んだ少年少女達が未来に自分を重ね合わせて色々想いを巡らせたんじゃないかなぁ。

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 ミステリ調の構成でひっぱった香織さまの謎のオチは笑った。1巻の冒頭で話題にだけでてきた、華雅学園から芸能界入りしたひまりさんなんてのもこの辺りにかかってきて、華雅学園の王道=ただ一つの選択ではない……というのを未来が身近に経験する話にもなってるんだよね。華雅学園から芸能人になった人もいれば、ちょっと変な小説家になった人もいるんじゃん。だったら自分は?みたいな感じで(まだそこまで内面は語られてないけど)。まあその辺りは置いておいても作中での(ある意味)強キャラ登場は良かった良かった。この人はまた是非出てきて欲しいです。コメディ調で結んであるんで本格的な香織さま物語とかあるのかどうかは謎ですが。

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 異文化交流あり、友情あり、動き始めた恋愛要素あり、百合あり、受験の悩みあり、さらにはミステリ的要素までブチ込んでいるという、おもちゃ箱のような物語、それでいてそんな様々な要素がスッキリと未来の一人称語りで紡がれる物語でまとまってるのがスゴイと思います。青春小説の傑作の予感。解説で野梨原花南先生が「十代に出会うと幸運な物語」と称していますが、僕も十代のうちに読みたかったよ。


『丘の家のミッキー』シリーズ


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