2006年11月18日

今野緒雪「マリア様がみてる 枯れ木に芽吹き」/感想/Cobalt (コバルト)2006年12月号

 私は、写真を脇に置いて大学の教科書を開いた。なぜだか、無性に勉強がしたくなった。

 意表をついて内藤笙子ちゃんのお姉さんの内藤克美さんが主人公……とみせかけて影の主人公はやっぱり蔦子さんだ!な最新短編感想。今回も堪能しました。以下、「続きを読む」でネタバレ感想です。
 ◇

 コアなマリみてファンなら、読み終わった後にいそいそと本棚から『バラエティ・ギフト』を取り出してきて、同じく笙子ちゃんと克美お姉さんのお話である「ショコラとポートレート」を再読して幸せに浸るわけですが(挨拶)

 もちろん、僕はやりました。「ショコラとポートレート」を読み直してからまた今回の「枯れ木に芽吹き」を読んで……と、どっぷり内藤姉妹DAYになってしまった本日です。

 ◇

 全体的には、原作なら「紅いカード」、最近の短編なら「三つ葉のクローバー」にも通じる、凡人視点からの凄い人に対する感情の持ち方を描いたお話だと思いました。凄い人達……「三つ葉のクローバー」風に言うなら「四つ葉」の人として今回は江利子さまがいて、そんな「四つ葉」な人に対する凡人(「三つ葉」)の悶々とした気持ちを描いて、それが昇華されるまでを描いたお話。

 江利子さまというデフォルトハイスペックの「四つ葉」人間を意識して、負けないように猛烈に勉強に打ち込む高校三年間を送ってきた克美さんなんだけど、そうした姿勢にはどこか無理もあって、「ショコラとポートレート」の序盤で描かれてたような、古い産業時代のガリ勉みたいな心の貧しさを見せてしまう時がありました。けれど「ショコラとポートレート」のラストで本当は高校時代にやりたかったことの残滓を追いかけて受験の後にバレンタインイベントで浮かれるリリアンにチョコレートを買って戻ってきたように、どこかで孤高の勉強家ではなく、もっとゆるやかに笑って生きたい想いを消せずにいるキャラというのが克美さんでありました。

 今回は、そんな克美さんがリリアンを卒業して1年目の正月、江利子さまへの競争意識で頑張ってた克美さんの高校三年間の物語が江利子さまの美大進学という、なんとも勝ち負けが決まらないオチになってしまって、どこか燃え尽き症候群気味に「枯れ木」状態になっていた克美さんが、「神社のお守り」と「写真」というちょっとした小道具を通じて江利子さまと再接触することによって、江利子さまへの想いが再構築され、ちょっと気持ちが昇華されて「芽吹く」までを描いたお話。

 ラストに江利子さまの存在が克美さん自身が作り出してた幻影とも言える「競争相手」から、普通の「友人/クラスメイト」へとステップアップして、そんな江利子さまと肩を並べて歩けるように勉強するんだ……と、「ショコラとポートレート」までは「無理してる」という感じで負の要素の色合いが強かった「勉強」が、非常に前向きな意味合いに裏返るのが清々しかったです。うん、やっぱり勉強はそういうポジティブな動機でしないとね。

 ◇

 と、普通に読むとそういうお話なんですが、それより何より、このお話は「ショコラとポートレート」と同じく、「写真」という小道具を使って、「ショコラとポートレート」の時は笙子ちゃんを、今回は克美さんをステップアップに導くポジションにいる蔦子さんがめちゃめちゃカッコいいです。それぞれに抱えたものから笑って写真に写れなかった姉妹の、フとした本当の笑顔の瞬間を捉えた写真を撮る蔦子さん。そんな写真がめぐりめぐって本人のもとに届き、ああ、自分、こんな風にも笑えるんじゃん、こういう側面もあったんじゃん……と自分を見つめ直すきっかけになって、気持ちの昇華に繋がる……と、この辺りは何やら不思議な縁を描くことが多い、実にマリみてらしい流れでした。そんな不思議な縁を取り持つキーパーソンとして、後ろにひっそりと、だけど存在感を持って君臨している蔦子さんがとにかくカッコいいのでした。

 ◇

 と、蔦子さん燃えでしめくくるべきお話でもあるんですが、それ以上に内藤姉妹萌えでしめくくりたくなってしまうお話でもありました。なんだよ、この、笙子ちゃん→蔦子さん、克美さん→江利子さま……へのLOVE光線は。もう、気になって気になってしかたないんだよ。克美さんが可愛い。江利子さまのことを悶々と想像して、競争相手に仕立て上げたり、自意識が押さえられなくて「お守り」というキーを自ら送ってしまったり、そして、ほんの15分余りの会話を噛みしめてたり。どんだけ江利子さまのこと好きなんだと。あとは最後のページの笙子ちゃんの絵が可愛い。一匹狼風な蔦子さんを師とあおぐゆえにクールな関係なのよ……と気取りたい所なんだけど、本当は好き好き光線を放ってしまってるという一人ギャップが可愛い。そんなこんなで、内藤姉妹可愛いなぁ……というのが今回のお話のまとめ感想なのでした。ハッ、これもちょっと亜種だけどストロベリ姉妹ッ!?

Cobalt (コバルト) 2006年 12月号 [雑誌]

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