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マリア様がみてる卒業前小景 (コバルト文庫 こ 7-59)  そこにあったのは、菓子パンなどではなかった。
 藻音の真剣な顔が、鉛筆でモノクロームに描かれていた。


 以下、『マリア様がみてる』新刊『卒業前小景』の、ネタバレ感想です。
 ◇

 『バラエティギフト』、『イン ライブラリー』、『フレーム オブ マインド』、『マーガレットにリボン』ほどの明確な短編集ではなかったんですが、一連の繋がったストーリーながら、事実上卒業式前の「小景」を視点キャラごとに切り取った短編の連続で出来ている構成だったので、短編ごとのちょくちょく感想形式にします。

●祥子さまと令さま

 バレンタインではチョコ全部断った伝説をはじめ、他人を突き放していた祥子さまが、3年間で変わったナーというのを、自分から進んで下級生のサインを受け付けるという描写で描いているお話。

 祥子さま的なブレイクポイントは二点あって、やっぱり一つ目が蓉子さまとの出会いで、二つ目が祐巳との出会い、といった所でしょうか。今巻は作中登場人物的にも、読者的にも、これまで色々なことがあったなーとしみじみしてしまうようなお話を意図して書いてる感じです。

●桂さんとお姉さま

 『マリア様がみてる』作中に何度もあった、すれ違いによる嫉妬と、それを克服するまでのお話。

 意図して、桂さん−妹の瑞絵さん−桂さんのお姉さまの関係を、意図的に「レイニブルー」〜「パラソルをさして」辺りの、祐巳−瞳子−祥子さまの関係に重ねることで、ここでも、色々あったなーと読者に想起させる効果を担っていると思います。

 で、「パラソルをさして」で、先行者として乗り越え済みの祐巳が、メンターポジションで桂さんにアドバイス。ここも、祥子さまのみならず、祐巳も成長したなーとしみじみする所でした。

●三奈子さま、真美さん、祥子さま、令さま

 僕の感想ではずっと書いてきましたが、『マリア様がみてる』では、こういう人なんじゃない?というイメージ先行の一方方向の関係を持っていた所から、お互いに、実はこういう人なのよ、という部分を理解し合って双方向の関係になるまでを物語として描くことが多いのですが(きりがないくらい繰り返されたマリみての物語の型ですが、最初のはやっぱり、イメージ先行で祥子さまを見ていた祐巳の一方向関係から、祥子さまってこういう人というのを知り、双方向化する「無印」から既に始まっている)、そのタイプのお話の、三奈子さま編のアンサー話という感じ。

 三奈子さま視点からは祥子さまや令さまは薔薇様で、ちょっと上の存在で、取材対象で、というそういう一方向の関係をイメージしていたんだけど、今回で祥子さまと令さまから、一緒に雑談してみたかった、ありていに言えば「友だち」だったんだっていうアンサーを返されて、三奈子さまからは思いもかけない形で双方向化してしまった、という、結構感動的なお話。

 そりゃ、後で祐巳が部室に入ってきた時思わず抱きしめるよなー。

●蔦子さんと写真部卒業生

 これも上述の一方向のイメージを抱いていたという関係が、双方向化するというマリみての十八番のお話。

 蔦子さん視点からはとっつきにくい、というか嫌われてるんじゃないかくらいにイメージしていた写真部卒業生の先輩達から、そうじゃないんだ、みんな蔦子さんのことは認めていたし、可愛い後輩としていじってみたかったりもしたんだというのがアンサーとして返されて、関係が双方向化して終劇しています。

 「思いがけずなされた関係の双方向化」を、「思いがけずに両側からお互いにシャッターをきるシチェーション」で絵的にも比喩的に表現しています。見事!と思った短編。

●美礼先輩と藻音さん

 これもこれも上述の一方向のイメージから双方向化するというお話でしたが、蔦子さんのお話と同様、ギミックが綺麗に決まってます。

 美礼先輩が結構そっけない態度で、藻音さん的にはそんなに大事に想ってもらってる訳でもないのかな的な簡易ミスリードで進むんですが、最後にお互いの描いた絵を見せ合った時に、美礼先輩の描いた絵にはパンではなく藻音さんが描かれていたという所で、美礼先輩から圧倒的なアンサーが返ってきて、双方向化して終劇。これも見事!という短編。

●由乃、乃梨子、瞳子

 この三人は、今回、卒業生を送り出すのにあたって、自分がどういう行動をするべきか?で思い悩むポジションで重ねられて描かれていると思いました。

 そして、それぞれ、由乃には聖さま、乃梨子には志摩子さん、瞳子には乃梨子(&志摩子さん)と導いてくれるメンターポジションが現れて、上手いこと自分がするべきことを見つけるまでが描かれています。何をすることにしたのかは次巻へ持ち越しでしたが、それぞれ、メンターポジションの人とのやりとりがくすぐったくも温かくてマリみてらしいと思いました。

●祐巳と祥子さま

 そして、上で書いた通り今回何編かの話に共通していた、一方向のサインからはじまって、お互いの気持ちが双方向化するまでを描くマリみての黄金の型のお話を、他ならぬメインカップルで卒業前にリフレイン演出で描いてくれたのが、ラストのこの二人の部分。

 一方向のサイン、祥子さまからの祐巳のリボンというサインが出されて、祐巳はそのアンサーを探して校内を回るのですが、それがそのままこれまでの『マリア様がみてる』で祐巳と祥子さまが重ねた物語の追想になっていて、最後に辿り着いた所でドアを開ける所で衝突して転倒するという無印のリフレイン演出までかかるというよく練られた構成。

 もちろん、リフレインされたとしても、追想してきた分の流れた時間がある分、祐巳も祥子さまも成長しているし、その時間を経過して辿り着いた今が尊い、ということを表現するための構成だと思います(直後にダイレクトに出会った時のお互いより今のお互いが好きって言語化して言ってますしね)。

 そうして、辿り着いた薔薇の館でなされる「双方向化」は、片手をリボンで絡めて、片手でお互いを抱きしめるという、絵的、比喩的に『マリア様がみてる』のアンサー的なもの。「片手だけつないで」で終劇する繋ぐ手をモチーフにして描いていた白薔薇物語なんかで表現されていたものがこのラストシーンにかかっているのは確かで、例の聖さまと栞さんは両方の手を繋いでしまって破綻した、聖さまと志摩子さんは片手だけ繋いでステップアップした関係を築いた……というあれです。

 祐巳と祥子さまにも破綻に辿り着きかけた時もあったけど(「レイニブルー」の辺りとか)、そういうのも乗り越えてきた二人だから、「片手だけつないで」、そしてそれはもう「依存」ではなく、自分の意志でもう片方の空いた手でお互いを抱きしめてやれる所まで辿り着いた、と。

 膨大な巻数綴られた、祐巳と祥子さまの物語のアンサーでOKなんじゃないでしょうか。卒業式当日は、先代薔薇様達のごとく清々しくお別れしていくと思うので。

 ◇◇◇

 次巻(あるいは次巻からしばらく?)卒業式当日話っぽいですが、今巻の仕込みから、先代薔薇様達が来る、そして次の世代の乃梨子、瞳子、菜々も何か役割を担うのが示唆されているので、オールスター揃い踏みでのクライマックスになりそうで楽しみです。

マリア様がみてる卒業前小景 (コバルト文庫 こ 7-59)

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