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マリア様がみてる―ハローグッバイ (コバルト文庫)  「ごきげんよう」

 以下、『マリア様がみてる』祐巳・祥子編最終巻『ハローグッバイ』の、ネタバレ感想です。
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 もう発売からだいぶ経ってしまいましたが、発売してその日に読んだ時は、まさかの(いや半分くらい予感はしてましたが)最終巻ということで、かなり呆然としてしまっていたのでした。すごい綺麗な最終巻でしたが、それとは別になんかこうぽっかりと、みたいな。

 しかし、月日は流れ、新刊短編集『マリア様がみてる リトルホラーズ』には三年次の祐巳達を描いた短編も収録されるということで、ぼちぼち元気になってきました。東浩紀氏のデータベース理論は現象は捉えていても、人間心理は捉えていない面もあるかなと思ったできごと。原典はデータベース化し、そこにアクセスして各人が創り出すシミュラークルで創作が回っていくみたいなお話ですが、どう考えても、僕にとって今野緒雪という人が書く原作『マリア様がみてる』はあらゆるシミュラークルを超えて別次元に位置している感じ。

 また、シミュラークルとの比較じゃなくても、他のあらゆる作品と並べても、どこか僕の中で別の所に収まっている特別な作品でした。『くもりガラスの向こう側』の由乃の話を借りるなら、心の中の「別な部屋」に入っている作品。個人的な一年に読んだ本のベストランキングとか僕も付けたりしますが、そういうランキングにエントリーされる作品とは、別の部屋に入って後生大事にしている作品という感じ。全ての価値が相対化してる今の世の中で、どこか唯一無二だった感じ、僕の中で。発売日には必ず書店が開くのを待ちきれずに家を出て、買ってきて夜までかけて読む……というのを5年以上やってたからなー。

 本編の感想としては、前巻のラストで人と人との相互理解、絆のあり方(代表は姉妹同士ですが)のようなずっと描いてきたものには決着をつけていた感じだったので、今巻は締めくくりとしての、メインキャラ全員登場のカーテンコールの趣でした。

 まずは祐巳、由乃、志摩子さんによる、三人送辞が面白かった。

 読む順番を決めたのが、志摩子さんの不思議な直感によるものだったのですが、案の定蜂のアクシデントが起こり、そこから立て直すにはその順番じゃなくてはならなかったという、ある種志摩子さんが予知能力を発現した的なお話。今度出る「リトルホラーズ」に入ってるであろう話が顕著ですが、どことなくファンタジー要素を否定しなかった「マリア様がみてる」の世界観。この後の蜂の架空語りを見せる聖様といい、なんとなくそういえば学生時代の頃までは持っていたような、現実と架空が行き来するフワフワした感覚が切り取られていて面白かった。

 そして、伊達にずっと先行者ポジションだった訳じゃない志摩子さんの卓越っぷりが描かれた所で、それをさらに上回る祥子様の答辞ですよ。「独奏者のアドリブ」ということで、蜂を捕獲しながらアドリブで答辞を述べるという、泣いてしまって令様に助けられた去年のリベンジ。友情パワーも良いけれど、最後の所は「独奏」というのが、何とも祥子様らしくてカッコ良かった。前巻から引っ張っていて、今巻冒頭でもあった、祐巳の卒業式では泣かないという誓い。また読者的にも抱いていた、最後は笑顔で清々しくお別れなんだろうな、という期待を、寂しさからではなく、祥子様のあまりの凄さが誇らしくて祐巳が涙するという風に裏返してきたのも感動的だった。

 そして最後は、由乃と菜々の姉妹の契りでフィナーレ。マリみての象徴でもある、ロザリオの授受が最終巻でも主要キャラで行われるというサービスもニクイ。しかも、ロザリオ単体ではなく、由乃のロザリオじゃないとダメだった、という、人間関係の漸進的な進歩を描いてきたマリみてらしい決着。最初はロザリオが綺麗だと思った所から始まったのかもしれないけれど、もう、菜々にとっては由乃のロザリオじゃなくちゃ意味がない所まできていたという。また最後の最後まで来て、菜々の真意と由乃の解釈とで、これまたマリみての要素である「すれ違い」が発生するのもニクイ。そして、それを是正する令さまと祐巳という絵もとても絵になっていました。

 という訳で、一応「祐巳・祥子編」という断りつきですが、マリア様がみてる、完結です。手前に瞳子、歩いている祐巳に、後ろには祥子さま、というエンディングは、ずっと描かれてきた、受け継がれながら連綿と続くリリアンの空間という表現。リアル読者にも共感できる話です。創作に限定しても、先行作品があり、この作品があり、次の作品がある。とりあえず、祐巳と祥子さまの関係を描いたこの作品は、ここにて終幕。素晴らしい作品でした。緒雪先生には百万の感謝を、です。

マリア様がみてる―ハローグッバイ (コバルト文庫)
マリア様がみてる―ハローグッバイ (コバルト文庫)

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