ヱヴァ破と、二人のアスカと、彼氏彼女の事情〜「優秀さ」と戦う物語〜/ピアノ・ファイア

 相変わらずいずみのさんはいい文章書くなー。
 よくある自己顕示のための評論とは一線を画して読んだ人に新しい視界を提供してくれるのは、該当記事の6年前の無印「ふたりはプリキュア」の文章から変わってない。

 この話の流れでの、雪城ほのかのポジションをハートキャッチで継いでるのはたぶん月影ゆりさんだよな、という今日のお話。
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 リンク先のプリキュア関係の部分だけを確認すると、「ふたりはプリキュア」の第20話では、ポイズニーの偽ほのかはなぎさの優秀な点だけをなぎさの特徴としてあげるんだけど、真ほのかの方は、むしろ優秀さとは関係ないなぎさの魅力をあげる……という話。で、それは、ほのかの自分も優秀さ以外の部分で承認して欲しいんだ、という気持ちと対応してるんだ、という話。

 優秀さだけを見られて他人から承認を得て、それがアイデンティティになっていては、しょせん代わりがいる状態。自分より優秀な人が現れたら、自分は無用な人間。それでは、深層の飢餓感は満たされない。報われない……というのは、この無印のほのかから始まって、続くシリーズでもプリキュアシリーズではちょくちょく出て来ます。

 僕がよく書いているのだと、「5」の水無月先輩。ほのかと同じく、両親に優先されなかった結果、能力としては優秀になっていくんだけど(ほのかも水無月先輩も、優秀さは天才なのではなく、両親に優先されなかった結果、誰かに優先されたいという動機が沸いて努力で身につけた感じになっている。MaxHeart最終回が、両親が海外へと飛んで行ってしまって泣きじゃくるほのかの絵から始まるんだけど、この二人は両親が娘を置いて海外へ行ってしまったのが同じ)、みんなからそこだけを見られて承認されているだけでは、孤独で虚しい。優秀ですね、綺麗ですねと生徒会長としてみんなに認められてはいたけれど、かれんさんは基本孤独だった。そこを、2話かけて夢原さんが無効化してくれた所から、かれんさんのお話は始まります。夢原さんはかれんさんの優秀さや外見の美しさではなくて、両親を大事に想っている気持ちの点でかれんさんを承認して、そこでかれんさんは救われてオチます。夢原さんの神力、おそるべし。

 「5」の話をちょっと続けると、そのあとかれんさんとブンビーさんが対比されながら描かれるようになっていって、優秀さ以外の部分で既に承認を得ているかれんさんと(かれんさんが救われてプリキュアに変身する第6話では、夢原さんの「かれんさんじゃなきゃダメ」「かれんさんの代わりはいない」という趣旨の台詞が入る)、優秀じゃなくなれば「代わりがいる」組織で働くブンビーさん……というような話になっていきます。ブンビーさんもノリノリで、あなた、優秀じゃないね、クビ。みたいな感じでギリンマさんとかアラクネアさんとか景気よくクビ切っていったんだけど、後々になってようやく自分も、自分より優秀な人材がいれば「代わりがいる」とクビを切られちゃうんだと気付いて、あたふたします。そんなブンビーさんが色々と心を入れ替えて、カワリーノさん似の新人さんを「代わりがいない」部下として育て始めるのは、実に「GoGo!」の最終回の話です。

 そして、この「優秀さだけで承認して欲しくない」、「代わりがいない存在として見て欲しい」というほのか-かれんラインのお話は、ハートキャッチにも出て来ます。

 それがおそらく月影ゆりさんなんですが、その前に既にハートキャッチ第4話で、主人公のつぼみの話で、この大きいラインの話の準備段階は終了していたりもします。

 「優秀さ」の点では自分は最弱で、来海にはとても及ばない。だから来海のパートナー辞退します。私の「代わり」を見つけて下さい……としょんぼりする花咲さんに対して、何故か来海が、圧倒的に「わたしにとってつぼみの代わりはいない、つぼみじゃなきゃダメ」と、花咲さんを優秀さ以外の部分で全承認。そしてこの回ではじめて「ふたり変身バンク」と「(ふたりで)ハートキャッチプリキュア!」の名乗りが入るという、綺麗な構成だったりします。

 で、そういう前段階を踏まえた上で、月影ゆりさんです。

 今の所、やれキュアムーンライト最強、綺麗で凛々しくて……と回りからは持ち上げられているんですが、それは実は、強さとか綺麗さといった、「優秀さ」を基準に見られている……という作中の段階ではタメの段階。

 だから第1話の「私の代わりを探して」というムーンライトさんの台詞が色々と象徴的な訳ですが、月影さんは、今の所自分はしょせん「代わりがいる」存在であることに自覚的なのです。

 この優秀にはなってみたものの、みんな優秀な点だけを見る。それって、私より優秀な人が現れたら私はいらないってことじゃない……的な虚無感を持っているのが、初期のほのかやかれんさんと同じ。

 そして、そこに至るまでの過程に、「親に優先されなかった」という動機が潜んでいるのも同じです。お父さんは、私を置いて、私の「代わり」の何かを追っていってしまった。それじゃぁ、優秀にでもなって他の人から承認を貰おうと頑張るしかないじゃない。

 そんないびつな動機で身につけた優秀さだから、本人としてもそこにはこだわってしまう。だから、私より優秀な存在がいれば「代わりはいるんだから」と次の代のプリキュアに譲ったのに、いざ花咲さんと来海に会ってみれば、どうにも優秀とも言えない、心構えもなってない、ファッションプリキュア。これは、「認めない!」とかブチ切れるのもしょうがない感じです。しかも、花咲さんも来海も、シプレコフレにおばあちゃんまで、キュアムーンライトは強くて綺麗で優秀だった優秀だったと、そこばかり言うし! みたいな。おお、あの辛気くさい顔も(ヒド!)、ツンデレというよりマジで虚無感とか苛立ちとか持ってそうな辺りも、「優秀さ以外で私を承認して欲しい」という飢餓感の裏返しなんだと思うと、がぜん魅力的なキャラクターに見えてきます。月影さんが出てくるとハートキャッチの面白さが跳ね上がるのは、この辺にも理由がある気がします。

 という訳で、なぎさがほのかを、夢原さんがかれんさんを救ったように、月影さんも誰かから「優秀じゃない部分を見てもらっての承認、代わりがいないあなたとしての承認」を貰って救われて復活するんだと思うんですが、彼女を救うのは誰なんだろう。

 主人公補正で花咲さん。何故かお互いが唯一の友人という設定があるもも姉……などの候補がありますが、僕は本命はダークプリキュアさんな気がしています。

 第13話の「どうして私にこだわるの?」は意外と深い。表面的な意味以外にも、ダークプリキュアさんが「優秀さ」以外の点で月影さんを見て、こだわってくれているのが不思議だし、それは上の文脈から行くと、一つの月影さんの救いでもある。

 しかし月影さんの救済とキュアムーンライト復活は、ちょうど花咲さんと来海の小さい日常の話と、月影さんとダークプリキュアさんなんかの世界がどうこう、家族がどうこうという話がちょうど交差してくる頃とも予想され、大変期待値が高まります。

 うーむ。去年後半がフレッシュプリキュア! と言うよりキュアパッション! 状態になったように、今年はハートキャッチプリキュア! と言うよりキュアムーンライト! 状態になりそうな気もするのでした。(ちょ)

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