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 公開初日に観てきた『映画プリキュアスーパースターズ!(公式サイト:音注意)』の感想です。

 今回は全5回でお送りする予定の、その第5回(最終回)です。

 第1回から順に読まれる方はこちらから。↓


映画プリキュアスーパースターズ!の感想1〜ワンオペ母に手を差し伸べる朝日奈みらいの物語(ネタバレ注意)


 それでは、第5回(最終回)。

 ネタバレを含んでおりますので、まだ観てない方はご注意下さい。
 ◇◇◇

 「過去」の悲しい出来事(はなさんとクローバーの「約束」の破綻)について、はなさんの視点からすると、クローバーのような「閉じた」場所で孤独でいる人物を「外」の世界に連れ出してあげることができなかった、そんなヒーローみたいな(プリキュアみたいな)ことはできなかった……そんな物語だというのを第2回で書きました。


参考:映画プリキュアスーパースターズ!の感想2〜悲しい過去も何とかなる物語(ネタバレ注意)


 一方でこの「過去」の悲しい出来事、クローバー視点からすると、鬼火によってクローバーは外の世界では生きられないと「思い込まされていた」という点に最後は焦点をあててみたいと思います。

 鬼火という存在が何なのか? どういったものを比喩した敵なのか?

 この部分は、プリキュアたち(多様性の象徴)を「飲み込む」、世界を同じ色に染める……という表現から、基本的には『映画プリキュアオールスターズDX みんなともだちっ奇跡の大集合!』(感想)のフュージョンと同じく、「グローバリズムの負の側面」の比喩なのかと思います。

 プリキュアシリーズが「グローバリズムの負の側面」と戦ってる視点がある作品群だというのは、初代プロデューサーの鷲尾天氏のインタビューなどがあり結構ファンの間では有名な話です。『魔法つかいプリキュア!』の時にこの点のけっこうまとめ的な記事を書いてるので、詳しくはそちらを参照して頂けたらと思います。↓


参考:鷲尾天氏のエッセンス〜均質化に向かう世界で「見え方が変わる」を守るということ―魔法つかいプリキュア!第15話「ハチャメチャ大混乱!はーちゃん七変化!」の感想(ネタバレ注意)

(フュージョンというキャラクターは「グローバル化」の象徴的な意味がありました。それに対してプリキュアたちは違う個性が集まることにこそ意味がある、つまりシリーズの違うキャラクターたちだって集まれるんだ、というストーリーになっているわけです。それ自体が一番のメッセージですね。)


 めっちゃざっくりとは、グローバル競争で最大化を目指して争い合うという世界観ですね。(たとえば)iPhoneは確かに素晴らしいのですが、iPhoneがグローバル競争を勝ち抜いて他の携帯電話・スマートフォンを淘汰して全てを飲みこみ、地球の全員がiPhoneを使うようになったらそれでイイのか? というような問題意識ですね。そこにあるのは「均質化」で、プリキュアたちの「多様性」とか「アニミズム」とは違う世界観なので、プリキュアたちはそれに抵抗するというような話です。


参考:フュージョン(融合)ではなくバラバラの二人が手を繋ぐのがプリキュアだと思い出した僕らは「鍋」オフ会の夢を見るか〜『魔法つかいプリキュア!』第47話の感想(ネタバレ注意)


 で、今回の鬼火もグローバリズム(正確にはグローバリズムと結びついた過度の新自由主義)の比喩で、クローバーは鬼火によって、世界はグローバリズムしかないと「思い込まされていた」という話なのではないかと。

 その「過去」の「思い込み」、「呪い」が、はなさんとの出会いによって、解かれる物語としても今回の映画は捉えられるということですね。

 グローバリズム+新自由主義+競争原理のコンボの負の側面としてよく語られるのは、何と言っても「人間の孤立化」です。

 みんなが、私が、私の商品が! とエゴを全開にして自由競争すれば、勝てる人・速い人・強い人は、負ける人・遅い人・弱い人を置いていくことになりますので、そこには人と人との「分断」が生まれ、特に弱い人の側は「孤立」していきます。

 クローバーはそんな「孤立」した人の比喩かと思うのですが、姿は子供ですが、僕は現代社会に当てはめるなら独居老人とかを連想してしまいましたかね……。第4回で書いたように、結局は消滅してしまって輪廻するあたりとかも。

 そんな「孤立」した人であるクローバーに、鬼火は「思い込ませ」ようとします。

 おまえはここ(閉じた場所:独居とか、そういうものの比喩?)でしか生きられない、

 外の世界は嘘ばっか(グローバリズムの過酷競争の中では、嘘で他人を出し抜いたりもします)、

 だからおまえを拡大して全てを飲みこんでやれ(おまえ自身が最大化(=グローバル化?)して全てを飲みこむしか解法はない……)。

 特に最後の、何もかも違う、だったら俺が世界を俺に染めてやる的な衝動は、現在の世界にうずまく負の感情としてはけっこうリアルです。

 この、鬼火によってクローバーにかけられた(そういう世界観しかないよという)「思い込み」、「呪い」をプリキュアたちが、主にはなさんが解くという映画なのですが。

 グローバリズムも新自由主義も競争原理も一つの世界観にしか過ぎなくて、特に普遍でもない、もっと別の世界観(「外」の世界)もあるはずだと「解く」映画なのですが。

 どうやって解くかというと、基本的には第2回で書いたように、


1.「過去」の「見え方」は変えられる(『魔法つかいプリキュア!』の方法論)
2.「失敗」を「閃き」で失敗したなりの思いがけない素敵なものに「昇華」する(『キラキラ☆プリキュアアラモード』の方法論)
3.他者からの「応援」(『HUGっと!プリキュア』の方法論)


 の3つの処方箋で解いていく映画でした。

 特に「3」ですね。「孤立」が一番の課題なので、もし誰かが「応援」してくれたなら、他者との繋がりが、他者から信頼されることがあったなら。

 エンディングの宮本佳那子さんの「七色の世界」の歌詞が染み入る部分で、いわく、「君が信じてくれたから」。

 グローバリズムに洗脳(と強い言葉で書いてしまいますが)されて「孤立」した人が、その閉じた場所から解放されて他者と関係性が結べることがあるとすれば、やっぱり誰かが「信じてくれたから」なんだろうな、って。

 クローバーにとってはそれがはなさんだったんだろうなって。はなさんがオールドファッションドな(昔気質な)「過去」の「約束」を守って、みらいさんやいちかさんの助力を借りながらクローバーに会いにいく、そして信じる。


 「もう二度と、あなたのこと傷つけたりしない」(野乃はな)


 からの、恫喝する鬼火(グローバリズム)をよそにはなさんとクローバーが手を繋いで「外」に出ていくくだりはウルっとしてしまいましたよ。

 「傷つけたりしない」。その安心があるから、「孤立」した人も「外」に出られる、こちらの記事で書きましたけれど、↓


参考:挫折を可能性と捉えなおすということ〜HUGっと!プリキュア第5話の感想(ネタバレ注意)


 『HUGっと!プリキュア』のはなさんは、かなりの程度「セーフティネット」的なヒーロー像を宿した主人公像だと思います。

 その後のクローバーの救いは、第4回で書いた通り、(ざっくりとは)「輪廻」といったものでしたが。


参考:映画プリキュアスーパースターズ!の感想4〜アニミズムとしてのプリキュアシリーズの物語(ネタバレ注意)


 最終的には、はなさん的、プリキュア的、アニミズム的、ブディズム(仏教)的なものはグローバリズムの比喩である鬼火すら包摂し、鬼火自身も浄化されるというエンディングまで本作は突きぬけます。

 この辺り、難しいのですが、アニミズムだとグローバリズムですらまた一つの「たましい」なので(鬼火も、視覚的に「たましい」の表現にも見えますかね)、両義的にアニミズムに包摂可能なのですね。かなりブディズム(仏教)チックな帰結とも感じました。これがまた、クローバーの世界に移動する時の演出が、ブディズムの曼荼羅(マンダラ)チックな表現になってたりもするのですよね……。

 狂騒する過度のグローバリズム、新自由主義、競争原理の中、わたしたちは「孤立」し、世界が「嘘」ばっかに見えることもあるかもしれない。何を信じてイイのか分からなくなることもあるかもしれない。

 そんな時に、他者との繋がりを取り戻して「外」(「次の」世界観)に行けるようになるのに必要なもの、それが、宮本佳那子さんのエンディング曲で語るところの「信じてくれたから」。

 『HUGっと!プリキュア』第5話で、ほまれさんがこんなことを言ってます。この人も、一人で抱え込みがちな、「孤立」に陥りがちな属性を持った人として描かれていた一人です。


 「けど、嬉しい。一緒にいてくれて、ありがとう」(輝木ほまれ)


 「孤立」しそうな時に会いにいってあげられるような、ただ一緒にいてあげられるような、ヒーロー像(プリキュア像)。

 使い古された言葉で言えば「信頼」を描いた映画だと思いました。

 それでは、今回の映画感想はこのあたりで。

 全5回に渡って読んで頂いた方がおりましたら、ありがとうございました!

▼『映画プリキュアスーパースターズ!』の感想
第1回〜ワンオペ母に手を差し伸べる朝日奈みらいの物語
第2回〜悲しい過去も何とかなる物語
第3回〜「幸福の王子」宇佐美いちかの物語
第4回〜アニミズムとしてのプリキュアシリーズの物語
●第5回(最終回)〜過去の思い込みから解放される物語

→サウンドトラック



→「映画プリキュアスーパースターズ! 」主題歌

「映画プリキュアスーパースターズ! 」主題歌シングル
「映画プリキュアスーパースターズ! 」主題歌シングル
Marvelous Entertainment Inc.LDC(PLC)(M)
2018-03-14


 ライブドアブログのトラックバック機能がなくなっちゃったので、長年の友人のプリキュア民(笑)たちの感想にもリンク張っておくよ〜↓

感想:映画プリキュアスーパースターズ!/穴にハマったアリスたち

 あと、何となく今年から実験的にしばらくコメント欄を開けておいてみるので、何かプリキュアの話とかありましたら〜。

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Amazon・ビデオでプリキュアシリーズを観る(初代〜ドキドキ!へのリンクまとめ)

→前回:HUGっと!プリキュア感想/第6話「笑顔、満開!はじめてのおしごと!」(ネタバレ注意)
→次回:一条蘭世さんが大事なキャラクターである理由〜HUGっと!プリキュア第7話の感想へ
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