というわけで、『マリア様がみてる』既刊17冊の一気読みを完遂したんで、ここまで読んでのまとめ感想などを。
 とりあえず、僕の好きなエピソードを3つ選んでみました。

●3位/白き花びら/『いばらの森』収録

 全編に渡って詩的で美しいんですが、聖と栞の相互依存に陥ってしまっての破綻を描いているという点で、マリみてのシリーズ全体を通しても重要なエピソードかと。聖と栞の関係では破綻が訪れてしまった、そこが出発点で、そこから段階を踏んで片手だけ繋いでるような聖と志摩子さんの関係、そして理想的な志摩子さんと乃梨子との関係へと、関係性の形が発展して行きます。白薔薇ストーリーだけじゃなく、マリみて全体のテーマの流れみたいなものがこの関係性の発展の流れに見て取れるように思えるので、やっぱし起点になってるこの話は大事。まあそれ以上に素で詩的にイイ話というのが大きいんですが。

●2位/パラソルをさして

 祐巳→祥子さまでべったりと依存していたがためにボロボロになってしまった祐巳が、復活、成長するまでを傘の象徴性のギミックを使って描いたえらく文芸風味漂うイイ話。主人公の祐巳の第一次成長、「世界は祥子さまだけではなく、様々な人達の関わりの中でできている、もっと視野を広げなくては」を獲得するまでを段階を追って丁寧にステキに描いてます。これも、依存関係からもう1レベル上の関係へと発展していく話というのがポイント。

●1位/銀杏の中の桜/『チェリーブロッサム』収録

 仏像もいい。でも、マリア像もまた違った美しさがあるんだ、って。

 この乃梨子の内面描写の後、クリスチャンの志摩子さんの方からも「今度、一緒に仏像でも観にいきましょうか」という言葉が乃梨子へ、このラストシーンにマリみてのテーマの全てが凝縮されている感じ。異なるもの同士でも分かり合える。仏像愛好家とクリスチャンでも分かり合える。数珠とロザリオに象徴させて相互理解の機微を描いているのがステキ。ロザリオである志摩子さんは、数珠とは矛盾するものだと自分で思って、万が一数珠であること(お寺の娘であること)が周囲にバレたら、ロザリオである(クリスチャンである)自分は排他的にその場を去らなければならないと思ってたのだけれど、そんなことは無かった。数珠とロザリオ、両方あっても全然OKだった。むしろ両方あるから違う人と分かり合えるものだった。全認性と相互理解の機微を堪能できて、コレはイイ話。単に、志摩子さんと乃梨子が一番沢山出てくる話だから大好きというのもありますが。

 こんな感じで、異なる人間同士の相互理解の物語が、マリみての中心部分なのかと思います。相互理解に至るまでの関係性の発展に段階があって、

 第一段階:お互いをお互いのイメージでしか知り得ていない段階
 第二段階:お互いがお互いを知ってるがゆえに依存し合ってしまう段階
 第三段階:お互いに自立しながら助け合える段階

 って感じで段階を登る様を描いているのだと思います。
 物語冒頭の祐巳→祥子さまの関係、可南子登場時の可南子→祐巳の関係なんかが第一段階ですが、この段階は現17巻時点では祐巳→祥子さまにしろ、可南子→祐巳にしろ既に経過しております(祐巳→祥子さまのイメージは、まあまったりと祥子さまの本性を祐巳が理解していく過程が描かれていたし、可南子→祐巳のイメージ先行で訪れた破綻は、「レディ、GO!」で関係性の段階が一歩進展した様が描かれていたと思う)。
 なんで、17巻以降でコレからポイントになるのは、第二段階から第三段階への昇華の部分かと思います。今の所、作中のゴールと思われる第三段階に到達してるのは、志摩子さん−乃梨子の新白薔薇姉妹だけです。第二段階で依存しあってダメになってしまった聖−栞さんの関係を受けて、聖は志摩子さんと片手だけつなぐような関係を構築した、聖さま卒業後、志摩子さんは少し聖さま依存に逃げそうになるんだけど、救い主の乃梨子が現れて救われて、理想的な第三段階の関係を作り上げることができた……ってな感じで取りあえず志摩子さんはもうゴールにたどり着いています。「レディ、GO!」の段階の「けれど、志摩子さんはいつでも祐巳の二歩も三歩も先を歩いていて、とてもじゃないが容易に追いつけそうもないのだった」という祐巳の心情描写にそのことが滲み出ていると思います。
 というわけで、先んずる志摩子さんを追う、祐巳、由乃さんの第三段階到達が今後の話のポイントになると思われます。そんな感じで、以下予想。

●由乃さん
 17巻時点でも相変わらず令ちゃんべったりで、未だ依存傾向なため、そこから脱出する話が今後描かれるものと思われます。で、おそらく、というか多分、妹を選ぶ付近の話がゴールになるのかと思います。自立傾向の妹と関係性を構築する中で、自然と令さまとの関係もお互いに自立したものになっていく……これが帰結としては一番自然かと。でもまあ、はっちゃけキャラなんでそんな作品全体のテーマとか微塵も関係無い所に着地しそうな予感もありますが、それはそれで面白いということで。

●祐巳
 「レイニーブルー」→「パラソルをさして」で、既に依存関係からの離脱の第一段階は描かれているんですが、ここ三巻あまり「祥子さまが卒業したら自分はどうなってしまうんだろう」的な心情描写が繰り返し挿入され、未だスパッと自立し合えてる第三段階には至っていない現在の祐巳です。逆に言えば、これが主人公祐巳の最後のハードル。依存心を完全に断ち切って、祥子さまを笑って見送ることができる成熟した関係まで持っていくことができるかどうか。作者がどこまで続けるつもりか分かりませんが(延々と世代交代を繰り返しながら続く超長編を想定している可能性もある)、テーマ中心で完結させるなら、祥子さまの卒業、それを見送る自立し、成長した祐巳……の所でエンディングが一番キレイだと思います。キーになるのはおそらく由乃さんと一緒で祐巳の妹になる人物。今のところ瞳子と可南子が候補ですが、二人とも祐巳ファンで祐巳にべったりのキャラじゃなく、自立志向の強い、時には祐巳に敵対するほどに真正面から祐巳を見ているキャラだというのがポイントかと。自立した妹との関係性の中で、祥子さまとの関係性も自立したものに発展していくみたいな。

 こんな感じで、今後の展望を予想しつつ以上がまとめ感想で。書いてて、志摩子さん−乃梨子ラインはもうコアな物語は無いのかもな、なんて思ってちょっと悲しかったり……「レディ、GO!」とか、既に二人お笑い要員になってたし。ただ、まだ聖のいつか志摩子さんに祐巳が祐巳だけの役割で必要になる時が来るという予言があったりするので、もう一話くらいメインがあるかもしれない。その辺りを地味に期待しつつ、それ以外でも祐巳らの先を歩く者のポジションでカッコよく描かれることを希望。結局、まとめ感想も白薔薇姉妹中心じゃん。


現在の人気blogランキングをCHECK!



前巻の感想へ次巻の感想へ