主要登場人物紹介から可南子がいなくなりました。前巻の「マリア様の星」で完全に可南子という登場人物に関しては帰結をつけたということなんでしょうね。マリア様の星、文芸度が高いステキな帰結でした。一生使っていけそうなギミックも授けてくれました。イメージが違う云々の話になるたびに、「その僕は火星に行ったと思って下さい」……というように使っていきたいと思います。
◇黄薔薇パニック

 少し前の巻の感想から言ってるように、令ちゃんべったりな人間関係から一歩前進して、どのように新しい人との間に新しい関係を作っていくか……が由乃物語だと思うんですよ。

 で、そういった由乃物語の帰結に関しては、前巻で既に、

 「別の環境で育った未知の人と、新たな関係を築いていくのは、何ていうのかな、すごく清々しい感じがする。だからといって、令ちゃんのことがどうでもよくなるわけじゃないんだね。不思議なんだけど、妹ができても、令ちゃんのことは変わらずずっと大好きなままでいられそう」(由乃)

 って辺りで、妹関係で新しい関係を築いていくことで帰着していくんだということは暗示されていたわけですよ。

 で、今巻、暗示通り来ましたよ、

 でも、この子は知らない。脳天が痺れた。

 なんて気持ちがいいのだろう。自分があまりよく知らない相手が、自分のことも知らない関係。


 幼少の頃からデフォルトだった令との関係とは真逆の、まったくゼロから始まる新しい関係。そのステキさを感じ取る由乃。もう、ここだけで由乃物語の着地はOKだなと。あとは菜々との関係をゼロから発展させていく物語の末、二人の間に絆ができあがれば、それがどんな形であれ令との関係とは違う新しい関係で、その新しい関係にも価値を見いだす由乃と、そんな感じで清々しく着地できそうです。

 僕はこの手の、ゼロからの関係を描く部分がマリみてでスゴく好きです。物語冒頭から絆がデフォルトで始まる相棒物にはない、ゼロから関係を作っていく機微。最初にマリみての1巻を読んだ時も、そんな感じのイメージでしか知り得ていない祥子さまとの間にほぼゼロから関係を作っていく祐巳……という流れに魅了されてこれだけ読み続けるきっかけになったのでした。今度の由乃−菜々は、イメージだけの関係すらほとんどない、まったくゼロからの関係です。ここまで物語が進んだ後に、僕の中で原点回帰的にこういうゼロからの関係性作り話を持ってきてくれたのは嬉しい限りです。

 で、当然新しい関係には乗り越えられるべき課題が設定されるワケですが、とりあえず第一段の課題は、曲がり角云々の比喩で語られてた、由乃は一番前を歩いてガンガン自分の道を歩きたいと今の段階では思ってるのに、菜々はその先を歩いて引っ張ってゆくタイプだって部分ですかね。剣道家の設定といい、登場初期から乃梨子並にレベルの高さを伺わせる言動、行動といい、妹候補なんだけど由乃より先んじてるというのがパンチを効かせて描かれています。

 課題克服は2パターン予想。

 由乃がとにかく我が道を行って意地でも菜々より前を歩くか(笑)、何かしら歩み寄りの機微が描かれて由乃の気持ちが昇華されるか。

 続く「白薔薇の物思い」、「紅薔薇のため息」では急に部活に打ち込みだした由乃の様子が語られているので、とりあえず最初は前者の方向でアプローチするように描かれるみたいですが。その方が由乃らしいって言えば由乃らしいと思うし、でも一方でマリみてお得意の機微機微した関係発展話も読んでみたいななんて、続きが楽しみな由乃−菜々関係でした。

・それにしても

 この短い話で、新キャラ有馬菜々の魅力をがっつり伝えているのがスゴい。キャラクターエンタメの鏡です。一発で菜々という登場人物に好感を持ちましたよ。僕的にやられたのが、

 「それは済んでしまったことですか、それとも進行形?」(菜々)

 の辺り。中学生にしてこの頭の回転の速さ、カッコいい。

 そしてそれらの行動力、思考力が、全て「面白いかどうか」という行動原理に集約されていると明らかになる終盤なんぞは最高。共感ですよ。僕も基本的に「楽しいかどうか」で行動決めてるふしがあるんで。

◇白薔薇の物思い

 こちらも数巻前からの感想で書いてるんですが、志摩子さんは作中でもう辿り着いてしまったキャラで、特に課題がないんですよね。その辺りに作中でセルフ突っ込みを入れながら、ショートエンタメにまとめられておりました。

 「お前は、やわらかい色がついた」(志摩子兄)

 あたりはしみじみ。家の事がバレたら学校やめる気で孤高の人だった志摩子さんが、仲間の助け、聖との関係〜乃梨子との関係……を経てやわらかい色がついた人に変わってきた。これこそが志摩子さん物語だったんだよなぁ……と。ますます志摩子さん物語は決着してる感が強くなるんですが(笑)。

 ただ、今巻では祐巳や由乃の妹問題に関して何もしてやれることが無いと感じている志摩子さんですが、前巻で示されたように、乃梨子の方は瞳子絡みで祐巳と関わることが暗示されてるんですよね。その展開に入る前のワンステップ的な意味合いの話でもあったのかなと。乃梨子−瞳子ラインで祐巳との関わりがでてきた時に、是非とも志摩子−乃梨子ラインでももう一枚物語に噛んで欲しいと思っております。

 それにしても聖さま→乃梨子のセクハラと聖さま→志摩子さんのセクハラ?疑惑はドキドキ。そう言われてみるとセクハラモードに入った聖さまと二人っきりの志摩子さんというのは描かれてないような気がするんですが、触られてたの?触られてたの?

◇紅薔薇のため息

 表面的にはハッピーモードの話を進めつつ、どこかでハッピーから落ちるんだろうなという雰囲気を滲ませる書き方が上手いなーと思って読んでおりました。

 そうか、そういえば祥子さま話がまだ残ってたんだ!と思い出させてくれた話でした。最近祐巳の妹話の方にばっかり気持ちが持っていかれてたんで、そうは言ってもその前に祥子さま課題の話は祥子さまが卒業する前に描かれるのが筋だよなと気持ちを改めさせてくれました。

 とりあえずは妙にハイテンションで遊園地に臨む祥子さまと、ラストの、

 「祐巳とは、これっきりというわけじゃないのだもの」(祥子)

 あたりから、祥子さま視点からもまだ祐巳に寄りかかってる状況で、卒業という形での祐巳との離別を乗り越えられるのか?という物語があると思うんですが(これは旧三薔薇様の卒業辺りでも描かれた、卒業後も残る、絆、想い、という辺りのマリみてのテーマとも関係してくる)、これに祥子さまの家庭内話も関わってくるような気がしてきました。

 前に「レディ、GO!」の感想の所で、外に愛人つくってる祥子パパが好印象キャラで描かれていたのが違和感……なんて感想を書いたんだけど、何か小笠原家にはもう一イベント入る伏線が入れられてるような気がします。祥子さまを表面的に傷つけた柏木の「同性愛者だから……」発言も、祥子さまを想うがゆえの嘘だったワケだし、加えて、祥子ママの、祥子パパから枯葉をもらったことを非常に喜ぶ描写……なんか、実はちゃんと祥子さまの回りには愛があるような気がするんだよなぁ。

 一方で、柏木は一気に「先んじてる者」ポジションにいるキャラだったことが明らかに。どうやら祐巳には見えてない物が見えてるみたいですよ。

 「君には見えていない部分もあるんだよ」(柏木)

 「パラソルをさして」で一レベル視野が広くなった祐巳なんですが、さらなる拡大をせまられてます。最初の頃から比べれば今の祐巳も十分スゴい祐巳なんですが、もっと、ストライク祐巳、インフィニット祐巳になっていかなきゃならないようです。柏木の言う「もっと上のステージ」が何かは具体的にはまだよく分からないんですが、とりあえず、祐巳にさらなるレベルアップの必要性が暗示されたことで、成長物語でもう一物語祐巳にはある……ということになりそうです。

 成長物語に入る前には必ず一つ落としパートが描かれるワケですが、とりあえず今回の遊園地話は落としパートその1になってしまってるみたいですね。祥子さまの体調不良に気づいてあげられなかった、柏木の方が祥子さまに関して先んじている……この辺りの祐巳の苦悩、葛藤、これが落としパートその1になって、(まだ落としパート2とか3とかあるかもしれないけれど)最終的には祐巳の内面がさらなる成長を見せるシンデレラカーブを描いて昇華されていくんじゃないかと思います。そこはもうファイナルクライマックスかなぁ。祥子さま絡みで今の代の間にその成長が描かれるとすると、やっぱりここで最後の成長を見せて、主人公祐巳の成長物語というメイン骨格があったマリみてという物語はひとまず区切りというのがしっくりきます。

◇あとがき

 3編にそれぞれ共通に入れているという要素、あとがきで言及されてる「お菓子」「車」「男の人」の他には、「女子大生」も僕は見つけましたよ(ラウンジで呼び出されてた女子大生、聖さま、柏木さんが喋ってた女子大生)。後はもしかしたらオノマトペかな。「青白い火がチリチリと」「ゴツゴツした大きな手」「サクサクって」などといった表現がそれぞれの編に印象的に使われております。

 それでは次巻も楽しみに。


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