Q1.サブタイトル「未来の白地図」の意味は?
好きなようにいろいろなものを描きこめる白地図。リリアンの生徒の、無限の可能性のある未来を、白地図に例えてます。
冒頭のモノローグ調の文章しかり、瞳子は今の時点では無限の可能性を秘めた白地図が現実で埋められていくたびに可能性が褪せていってしまうことに絶望を感じているんですが、ラストの「薔薇のダイアローグ」の令が自転車で走り出すシーンの如く、それでも無限の可能性の中から自分が選択した未来に向かって歩むということに、清々しさ、ポジティブなイメージをも付加して1冊内でまとめておりました。サブタイ「未来の白地図」がばっちり内容とマッチして決まっておりました。
◇
さて、珠玉の関係性発展ストーリーのマリみてですが、今巻でスポットが当たってる人間関係は、由乃−令、祐巳−祥子、祐巳−瞳子の3組だと(いや、もちろん細かいのはもっとあるんですけど(^_^;)して、以下、それぞれ感想を書いていきたいと思います。
●由乃−令
マリみて感想のたびに何度も引っ張り出してくる僕の考えたマリみて内の、関係性発展段階表なんですが、やっぱりマリみてでの人間関係はこういう段階的なプロセスを経て発展していくように思ってるんですよね。↓
第一段階:お互いをお互いのイメージでしか知り得ていない段階
第二段階:お互いがお互いを知ってるがゆえに依存し合ってしまう段階
第三段階:お互いに自立しながら助け合える段階
で、白薔薇姉妹のストーリーでは、世代交代を経ながら、がっつりと両手を繋ぎ合ってもたれかかって破綻してしまった聖−栞の関係から、最終的に理想的な第三段階の志摩子−乃梨子姉妹の関係へと着地して、関係性発展話がひとまず終着していると、そんな感じ。
で、由乃−令物語では、未だ第二段階、お互いにちょっとくっつきすぎな状態にある由乃と令が、由乃が妹を持つイベントをきっかけに、もっと自立しあった第三段階の関係へと移行していって帰結を向かえると、そう予想しているとここ近刊の感想でずっと書いてきました。
で、既に「妹オーディション」の中では、
「私ね、かなり嫉妬したよ。令ちゃんをを見ていて分かったもの。でも、今なら理解できそうな気がするんだ。別の環境で育った未知の人と、新たな関係を築いていくのは、何ていうのかな、すごく清々しい感じがする。だからといって、令ちゃんのことがどうでもよくなるわけじゃないんだね。不思議なんだけど、妹ができても、令ちゃんのことは変わらずずっと大好きなままでいられそう」(由乃)
という由乃の語りがあって、由乃の方からはもう既に令ちゃんとの関係が自分が妹を持つプロセスを通して第三段階に移行していくことを予期し、それを受け入れる心構えはできてることが描かれていました。
で、今回は逆に令視点の方から由乃と少し離れて自立した関係へと向かっていくのを受け入れる覚悟を決める話が、主に「薔薇のダイアローグ」の令と祥子さまとの会話を通して描かれたと思うのですよ。
これが切ない。切ないっていうか切なカッコいい。
「ひょんな事から」の中では、
でも、そんな過去、もう遙か昔のことのように思われた。
と、由乃視点の方ではもう体が弱くて令ちゃんに守られていた頃の話は完全に過去のものになってるのが切ない。その一方で令の方は「薔薇のダイアローグ」で葛藤してた内面を祥子さまに吐露してるように、由乃を守るためだけに将来設計して生きてきたのに、由乃が一人で元気になってしまったことで一種のアイデンティティロスト状態になってしまっていたという。姉の心妹知らずです。
でも、そこからは読み終えた方はご存じの通り、令の方でも由乃に依存しない自分の道を選択し、リリアン以外へ進学するという、由乃との関係も第三段階へ向かうことを覚悟完了したというラスト。ここがステキだった。由乃−令の関係性変遷物語も、令の卒業を区切りに、一つの帰結を向かえそうです。少しづつ、物語要素が消化されていってしまうなぁ。ちょっと寂しい。
……で、この令の選択と対比されるのが、祥子さまの選択なワケです。上掲した関係性発展プロセス表は薔薇ファミリー全員に当てはまると思っていたので、なおかつここ数巻で祥子さまの方からも祐巳にべったり、かつ祐巳の方でも祥子さまが卒業しちゃったらどうなるんだろう……みたいなモノローグが頻繁に入るなどがあったので、これは、最後の最後にこのお互いにまだまだ寄りかかった状態(第二段階)から、自立した第三段階へ移行して、清々しく祐巳は祥子さまを見送って、祥子さまの方でも祐巳離れをしてエンディングなんだろうなーと思ってたんですが、なんと!↓
●祐巳−祥子
「私は、祐巳がいるリリアンに残るから」(祥子)
という、僕的にまさかの祐巳と祥子さまは離れないという展開。この事実が明らかになるシーンでめちゃめちゃビックリしました。妹と離れる選択を下した令と、妹と一緒にいる選択を下した祥子さま。その対比は美しく、なおかつ二人は親友同士というラストの自転車二人乗りのシーンなんかは美しすぎて感動ものだったんですが、それにしてもこれには驚いた。
現在祐巳には今巻で印象的だった瞳子との関係に関する課題の他に、
柏木さんは、わかってる。それはたぶん本質的なもの。祥子さまとの関係において、祐巳が真に求めている、まだ自分でも気づいていない答えのようなものを。
というように、祥子さまとの関係において本質的な何かを見つけるという課題が存在することが描写されてるんですが、これ、祥子さまがリリアンに残るなら、この課題の帰結は来年以降に持ち越しかも。作中時間で祥子様卒業までにあと3ヶ月あまりしかないのに、瞳子の問題を解決しながらこっちの問題にも答えをというのは難しそう。両方を絡めて描いてくれたらそれはそれで高密度でステキなんですが、僕的に持ち越し希望。一時は美しくコンパクトに(もう十分長編シリーズモノですが)祥子さま卒業で祐巳−祥子さま関係に区切りをつけて最終回の方がいいかなーと思ってたんですが、最近は本当この作品は長く続いて欲しいと思ってるんで、もう、祐巳達が薔薇さまになる1年にも突入しちゃっていいかも。そこで大学生になった祥子さまと、祐巳自身の未来の選択を絡めてこの課題は決着させてくれればいいんじゃないかと。「本質的なもの」はどんな感じに描かれるんでしょうねー。どの時点でどういう形で描かれるかはともかく、その辺りが描かれる時は文芸性の方のベクトルに物語がよりそうなので、今から楽しみにしております。令−由乃の物語がほぼ決着しそうなのに対して、祐巳−祥子さまの話はひっぱるなぁ。さすが主人公姉妹です。
●祐巳−瞳子
で、今回のメインのこの二人の関係は、上掲の関係性発展段階表からすると、祐巳視点からはまだ第一段階の色合いが濃いという感じです。瞳子ちゃんのこと勝手に想像しちゃって……とか、祐巳の独りよがりでしかなかった……とかそんな文章が続きます。ずっと微妙な伏線が張られてた二人ですが、ようやく、ようやくスタートして本格的に物語が始まったという感じ。瞳子→祐巳では、段々と瞳子にとって祐巳がどうでもイイ存在ではなくなっていく様が近刊では描写されていたんですが、一方で祐巳→瞳子の方では祐巳は今ひとつ瞳子の内面に関して無自覚、鈍感というように描かれてもいました(そのせいで乃梨子→祐巳でちょっとした反感の感情を抱くことになるなんてサブイベントを込みつつ)。それが、ようやく今巻で思わず抱きしめそうになってしまったりと、少しづつ祐巳→瞳子での想いが変化していく様が描かれ始めました。しかし、急速な 「私の妹にならない?」に対しての、瞳子のお断りという展開。これは、もう、ラストの祐巳と祥子さまとの会話にもある通り、祐巳−祥子さま時の一度は断られるという展開をリフレインさせつつの、祐巳−瞳子物語の本格スタートということなのではないかと。
とりあえず、まだまだ課題が示されているので、それらを徐々に解消しながら発展していくんでしょうね。一つは柏木さんから言われた「覚悟」の課題とかね。覚悟を決めて瞳子の事情を聞くというイベントすら経ずに無事姉妹になってめでたしめでたしで着地とはさすがにならないですね。これから少しづつ描かれていくであろう祐巳−瞳子物語に期待したいです。マリみてらしい機微機微した話を希望。どっちもボロボロでも、両方応援したくなるのは基本的に敵なしのユートピアエンタメなマリみてらしくてさすがです。
◇
ほか、由乃→菜々で片想いLOVE状態なのがすごい微笑ましくて面白かったり、ああ、やっぱ志摩子さんは志摩子さん視点の文章もないし、ちょっとメインからは離れて先んじてる人のポジションからちょくちょく関わっていく感じになるのかなぁ、それは志摩子さん好きとしてはちょっと残念だなぁとか、瞳子と可南子が仲良くなるきっかけ話は短編くらいで書いてくれそうとか、色々思うところがあるんですが、全部書こうとすると一週間くらいマリみてで語ってしまいそうなので、この辺りで『未来の白地図』の感想をしめておきます。マリみて感想のコメント、TBお待ちしていまーす。
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