
日常が崩れ去る瞬間は、極めて日常的だ。
崩れ去った後に残るものが、非日常という名前の受け入れがたい現実なだけで。
とりあえず、冒頭のこのフレーズからやっぱりセンスあるよなーと思って一気に読了したのを覚えています。テーマはね、中学生なりの「世界」というものに関する哲学だったり、戦争に関する哲学だったりして大人読者からすると物足りないような所もあるんだけど(大人読者がコバルト文庫読んでる方が有標なんで、逆に作者と同年代のメイン読者層の人は素直に入り込める部分かもしれない)、それを、この位の年齢の時っては無理してよく分かってない難しい言葉使ってみたり、ストレートに思想・心情をそのまま感情の発露の如く伝えてしまいがちなのに、そういうことはしないでちゃんとエンターテイメントの文脈に載せられるように加工した上でアウトプットできてるというのが、やっぱスゲーと思った部分です。普通に楽しいキャラクターと、そのキャラクターが織りなすリーダビリティが高い掛け合いの会話で進んでいく物語に身を任せていくうちに、実はちょっぴり深いテーマも入ってたんだ……と明らかになるという、ストレートにテーマ・想いのたけを発露することに恥ずかしさを感じてるかのような作劇。基本はエンターテイメント、語りたい深みはあるけど隠す……みたいな機微が非常に好感が持てます。商業小説と比べるのはおこがましいですが、僕なんぞ、普通の文章でも、こういう気配りができるようになったのは大学生も終わろうという頃くらいですよ。それを高校生のこの年齢で獲得してるというのがやはり凄い。その純粋なエンターテイナー精神に感服。
ストーリーもね、典型的な「普通の女の子がファンタジー世界にやってきてしまって!?」の王道テンプレートを地で行くようにみせかけて、どこかそういったテンプレートに批評精神(これは大げさな言葉ですが)が入ってるっていうか、そういう王道をちょっと斜めから見てるようなお話で、有名ファンタジー作品をパロにしてしまったり、着地も王道からちょっとずらして、王道テンプレートもいいけど、それだけじゃつまらなくね?的なロック魂を感じるストーリーになってます。
若い。若さにまかせてギターをかき鳴らしてる少年少女の中に稀にすげー輝きを放ってる人がいるようなのの、小説家ヴァージョンといった感じです。デビューしちゃってもう無標な世界には戻れないので、若いうちにしか書けない作品を若いうちにどんどん書いちゃって楽しさを広げて欲しい作家さんです。
最後に敬愛する島本和彦氏(敢えて女子高生と縁遠いような氏をセレクト)の『吼えろペン』より炎尾燃のこの台詞をユヅキ先生に送って感想でもなんでもない失礼な話をしめたいと思います。
「いかにも私は新人ですのでやっちゃいました!!という風に描く(書く)んだ!」
◇
WEBラジオの方だけど、とりあえず、真朝ちゃんよりユヅキちゃんの方が呼び方可愛くない?緒雪先生よろしくで名前で呼ばれる先生として定着させた方が親近感あるよ、きっと。
→デビュー作


現在の人気blogランキングをCHECK!
→少女小説感想インデックスへ
→マリア様がみてるシリーズ感想インデックスへ