奇跡。運命。そんな言葉が頭の中でグルグル回った。そうしたら、祥子さまは突然「ねえ、奇跡って信じる?」と言った。

 やっぱり祐巳が癒されていく過程と、クライマックスの傘が返ってくるシーンは胸にグっと来ます。やっぱりマリみての魅力が十全に詰まった1冊を一つ選べと言われたらこれを選ぶという、現行最高エピソードかなぁ。
 前巻、『レイニーブルー』での、

 「祐巳の学校生活はさ、祥子さん中心に回ってるんだね」(祐麒)
 「そうよ。だって姉妹だもん。…何で?」(祐巳)
 「依存している、っていうか。ちょっと心配だな、って」(祐麒)(P165)

 の、仕込み。

 そして、『パラソルをさして』の冒頭での、

 ここ半年、祐巳はお姉様ばかり見ていた。瞳はお姉様を追いかけ、耳はお姉さまの声を探し、唇はお姉さまに捧げる言葉を発する喜びに震えた。直されるセーラーのタイさえもが、お姉さまの指先を心待ちにしていたのだ。(P10)

 の一文。完全に祥子さま依存に陥っていたがために本質が見えなくなってボロボロになってしまった祐巳。そこから、聖さまの優しさに触れる祐巳。加東景さんの優しさや、語りからくる世の中の人それぞれの事情に開眼していく祐巳。どんな状況でも友だちだと、初めて呼び捨てで名前を呼んで抱きついてきた由乃にまた一つ祥子さま以外の繋がりに気付く祐巳。弓子さんの言葉に存在を肯定される祐巳。そして、全てが積み重なった所で、見えない人々の善意で祐巳の元に返ってきた青い傘。

 全てを経て、祐巳の第一弾ステップアップを象徴する、

 でも、祥子さまと会わずにいる間に、いろいろな人と触れ合って。世界は祥子さまと自分だけで構成されているわけではなくて、同時進行でたくさんの人が生きているのだと気づいた。

 もっと、視野を広げなきゃ、ってわかったのだ。(P104)

 の文章が挿入されます。

 このシーンは何度読んでも胸にグっとくる。視野狭窄でボロボロになってしまった一人の少女が、世界の善意に助けられて力強く視野を広げる一歩を踏み出す様が、素晴らしすぎる物語で描かれています。やっぱりマリみて好きだなぁと実感する瞬間。この主人公の少女の成長物語を綴った作品でもあるという一点で、やはりマリみては『若草物語』や『赤毛のアン』のような古典少女小説に通じる、本格少女小説(こんな語はないかもしれないけど、「本格ミステリ」から発想を得て呼んでみる)でもあると思うわけなのでした。

 ◇

 再読して気付いたのは、ボヤかされたまま集結してる弓子さんと祥子さまのお祖母さんのお話もステキだよなぁという点。幾年の時を超えて和解のために再会することができた二人を、離別状態だった祐巳と祥子さまの再会に重ねてるのは確かだと思うんですが、それだけじゃなく、やっぱりそこだけ時がとまってるかのような古くから続く伝統校であるリリアンという舞台を生かして、時を超えた想いの成就を幾度と無く描いてきたマリみてテイストが詰まってるんでしょうね。時を超えての須賀星さんと学園長の再会を描いて、聖さまと栞さんの悲恋に救いを持たせた「白き花びら〜いばらの森」あたりのテイストを感じます。そうやって受けつがれ、時に繰り返し、人は力強く前向きに生きているというのは、間違いなくマリみての一つのテーマだと思います。

 ◇

 近刊との繋がりでいくと、最新巻で明らかになった瞳子の状態も、『レイニーブルー〜パラソルをさして前半』の祐巳と似てるような気がするなぁ。瞳子の回りにはちゃんと善意があって、もう扉の鍵を差し出してる人までいるのに、その辺りが見れずに自分の振り上げた刃物で自分を傷つけてしまってる辺りは、祐巳が陥った視野狭窄状態に似ています。瞳子も、次巻から癒しパートが始まるんじゃないかなぁ。『パラソルをさして』の祐巳が癒されていく過程が、本当に温かく心に響くものだったので、瞳子におけるその過程にも期待しております。また、素晴らしい文章で温かさを届けて欲しいです。

マリア様がみてる - パラソルをさして


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