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 「紋白蝶みたいだね」
 褒めても貶してもない、ただの感想だけど、祐巳はそれがすごく気に入った。


 成長した祐巳にまたウルウルとくるお話。クライマックスの意味、再読して初めて気付いた。初読時は理解しないまま読んでた。「パラソルをさして」で再構築された祐巳と祥子さまの絆を、『無印』から連なる種々のギミックを所々に仕込んで描いてた話だったんですね。
 クライマックスで西園寺の曾お祖母さまのために祐巳が「マリア様の心」を歌うじゃないですか。これが、なんで「マリア様の心」かって言ったら、『無印』で、その頃はまだお互いに遠い存在だった祐巳と祥子さまを、「どうしてサファイアなのかしら?」という疑問を共有することで二人には近い部分もあるということを表現するのに使われた楽曲というだけじゃなく、『無印』では最後、祐巳と祥子さまがお互いをがっちりと見てこの「マリア様の心」でワルツを踊るシーンで締められているじゃないですか。

 非常に美しくまとまっていながら、このあまりにお互いがお互いのためだけに……みたいな、二人の世界に没入してしまう状態は、『マリア様がみてる』では必ずしも最良の状態としては描かれないんですよ。両の手を繋いでしまって悲譚に終わってしまった聖さまと栞さんの話しかり、『レイニーブルー』で世界は祥子さま状態だった祐巳が、祐麒に「依存してるんじゃ?」と忠告を受けながらもボロボロになってしまっていったように。

 だけど、『パラソルをさして』で、祐巳はそんな世界は祥子さま状態から、

 でも、祥子さまと会わずにいる間に、いろいろな人と触れ合って。世界は祥子さまと自分だけで構成されているわけではなくて、同時進行でたくさんの人が生きているのだと気づいた。

 もっと、視野を広げなきゃ、ってわかったのだ。(P104)


 と、抜け出して、1レベルステップアップしたので(今巻でも一個の人間の周りにはたくさんの人間がいて、それが社会を作り出している。だからといって、無人島に二人で漂着すればいいかといえば、そうでもないし。(P154)という祐巳の述懐が入りますね)、今巻のクライマックスでは、『無印』では世界は祥子さま状態で二人で踊った「マリア様の心」を、今度は祥子さま以外の世界を構成している他者である、西園寺の曾お祖母さまのために、見栄や怒りからじゃなく、ただ、そこにいる他者に喜んで貰いたくて無償の気持ちで歌うんですよ。これが感動的だった。

 そして二番から祥子さまの伴奏が入るという流れも美しすぎます。『パラソルをさして』で再構築された今の祐巳と祥子さまの距離感では、この二番から祥子さまの援護射撃が入るというタイミングが非常に適度な距離感を感じさせてくれます。

 そして、最後に曾お祖母さまに、祐巳が髪に挿した山百合を抜いて差し出す場面。それに曾お祖母さまが「マリア様の心、ね」と答える場面。これが、初読時は理解しないままスルーして読んでしまっていた。前述した「無印」で祐巳と祥子さまの関係を描写するのに使われた「マリア様の心」の歌詞に出てくる「山百合」にちなんで祐巳は山百合を差し出してるんですね。だから、

 それは、その歌詞をきちんと心に刻み込んでいる者だけがわかる、謎解きなのだった。(P200)

 なんですね。読者に向かって挿入してる一文ともとれます。『無印』をちゃんと覚えていて、そこに出てきた「マリア様の心」の歌詞を覚えてる人にだけ分かるよ、的な。

 それにしてもこのクライマックスの章題は「天使の歌」ですが、この巻の祐巳は本当天使です。よくぞここまで成長してくれた。WEBラジオで祐巳役植田佳奈さんが、OVA3rdシーズンの『子羊たちの休暇』に言及する時にしきりに「祐巳が成長しちゃって」と言ってるんですが、それだけ、『パラソルをさして』での祐巳のステップアップ、及び、それに伴う祐巳と祥子さまの絆のステップアップが大きいということなんでしょうね。これ、OVA3rdシーズンの『子羊たちの休暇』では植田さんが「マリア様の心」歌うんだろうか。歌うしかないよね?ここがクライマックスだもんね。アカペラ独唱、超楽しみです。今、想像しただけで感動した。

 ◇

◇他、ピコポイント

●この巻から、花寺の男達が登場

 これも、これまでは祐巳視点から祥子さまを見てる話が多かったのに対して、『パラソルをさして』での「視野を広げなきゃ」を受けて、学外の、男性諸君の存在なんかにも祐巳が目を向け始めて関わり始めていくという、このタイミングで挿入されるのが絶妙なイベントなのだと思いました。もう、世界は祥子さまだけではなくて、祥子さまを置いて祐麒と男友達が待つメインストリートに繰り出してもいけば、一人で悩んだりせずに西園寺邸に行く前に仲間からパワー貰ったりもするんだよね。

●瞳子

 最新刊『大きな扉 小さな鍵』にて、柏木さんの口からこの巻で瞳子がカナダ行きを中止して軽井沢に現れたのは祐巳が心配だったからだろう?というのが語られますが、これは本当っぽいです。この部分も初読時は全然気付かなかった。なんか、カナダが気に入らないショートエピソードでも後から入るのかもくらいに思ってた。でも、ちゃんと瞳子が祐巳を意識してるような微妙な描写が何度か入りますし、極めつけは、祐巳の、

 ツンとすまして、瞳子ちゃんは側を離れていった。ただの納涼会ではないと知っていても自らは出席し、祐巳には帰れと忠告する。瞳子ちゃんの考えてることこそ、祐巳にはまったくわからなかった。(P188)

 ですね。この頃から、瞳子の方からは祐巳のこと気にしてるのに、それが何故なのか祐巳の方は分からない……という近刊まで続く祐巳と瞳子の関係が始まってたんだ(祐巳の方から瞳子を本格的に意識し出すのは『未来の白地図』から)。こんなに早くから、瞳子が「祐巳が気になる」光線放ってたとは思わなかった。近刊の祐巳−瞳子物語のクライマックスへの仕込みがこんな所からです。近刊をより楽しみたい人は、この辺りの話を再読しておくと良いよ。

 ◇

 ともかく牧歌的な癒しの空間で見せられる成長した祐巳という絵がただただ心地よい、納涼的な一作でした。夏には、毎年これ読んでOVA版も視聴しようなんて心に決めてますよ。

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