
1年前刊行の『未来の白地図』に対応した、今度は地図に×印(クリスクロス)をつけるというお話。その視点から読んでいくと、相変わらず惚れ惚れします。
『未来の白地図』では、無限の可能性に満ちている白地図にも、いずれ何かを書き込まなければならない。そして、そうやってできた地図は自分の思った通りのものになるとは限らないということに気付いてしまった幼年期の瞳子の心情が語られ、それが現在の進路問題で悩む瞳子にリンクして、ある種白地図(未来の比喩)をネガティブに捉える瞳子……というのが描かれていたわけですよ。
で、今回は、それからの今巻までの物語を受けて、瞳子が地図に×印(クリスクロス)を書き込む、つまりは、それでも一歩歩み出して、未来の可能性の一つを選び取るまでのお話が描かれたのでした。
今巻が「選び取られる未来」のお話である点は、以下の部分に顕著に示唆されています。
宝として隠された紅いカードは、どのような未来に落ち着くのだろう。何通りもあるそれを思い描き、いったいどれを望んでいるのかと自分に問いかけてみても、はっきりと「これ」と一つを指し示すことができない。(P72)
……といった感じで、紅いカードの行方が祐巳と瞳子の未来の行く末の一つの暗示……というか一つの試金石的に使われてるわけですが、それを踏まえた上で、作中で祐巳と瞳子が、それぞれ地図の一カ所に×印(クリスクロス)を付けるシーンが描かれるのが熱かったです。それはすなわち、二人の思い描く紅いカードの在処にして、比喩としては二人の思い描く二人の未来の在処ということです。それがめでたく一致すれば……というわけなんですが、そこからまだまだ物語を展開させるのがマリみてなわけで。
まず、作中で瞳子がクリスクロスを付けた(この行動にようやく出れるまでに、乃梨子と祥子さまがある種メンターポジションで一役買ってるのが描写が丁寧)箇所は、社会科準備室。しかし、これは乃梨子によって「祐巳さまを甘くみている」とダメ出し(勿論、瞳子を想うがゆえの)を食らってしまいます。
ここがマリみての丁寧な所で、あるいは、『パラソルをさして』よりも前の祐巳だったら、たった一人の大事な人のことを想ってその人のためにカードを隠したかもしれないんですね。『レイニーブルー』まで、世界は祥子さま状態で閉じていた祐巳だったら。しかし、祐巳は既に『パラソルをさして』で、世界とは=大事な人(当時は祥子さま、今はそれが瞳子に写像されている)状態からはステップアップして、「視野を広げなきゃ」と、様々な人の人生が同時進行で進んでいる存在こそが世界と悟っているので、今回も一人のため(瞳子のため)だけにカードを隠すということはしなかったんですね。そこまで見抜くことはできなかった瞳子は、まだまだ『レイニーブルー』以前の祐巳レベルで、今のものすごく成長してレベルアップしてる祐巳には社会科準備室のシーン時点では届かなかった感じです。
とは言いつつ、最後の「地図散歩」で明らかになることですが、祐巳自身も候補として実は社会科準備室は考えていたんですね。ここで、二人の考えたクリスクロスがニアミスしてるのが熱い。だけど、ニアミスしつつも、祐巳の方が一歩先んじていたわけで……ということで、祐巳の方がクリスクロスを付けた場所は、薔薇の館。一人の人に向かって閉じた世界ではなく、皆に開かれている(という蓉子さまの理想に向かっている)場所。この、二人のクリスクロス(未来のあり方)がニアミスしつつもまだ重ならなかった所が上手いですね。上手いというか、「タメ」の部分ですね。
で、その「タメ」を解放するべく、瞳子がついに祐巳のつけたクリスクロスの場所である、薔薇の館、すなわち祐巳のいる場所(祐巳自身、そこに印を付けたとき、今ここにいるのにちょっと不思議という趣旨のことを語っている)に様々なポーズや心理的障害をかなぐり捨てて、ついにやってくるわけですよ。二人が付けたクリスクロスが重なる瞬間。くもりガラスが開いた瞬間。仮面が取れた瞬間。扉が開いた瞬間です。
「私を、祐巳さまの妹にしていただけませんか」(瞳子)
長かった……。だけど、このシーンで引きという、すさまじい生殺しプレイを今回緒雪先生はやってくれてます。
どうなるんだろうなー。これで決まりだと思うけどなー。乃梨子が指摘していた通り、狭い世界で祐巳を探していた(社会科準備室にクリスクロスをつけてた)瞳子が、外の世界に開いている祐巳の場所(祐巳がつけたクリスクロスの場所)にまでついに辿り着いたということで。あー、続きが気になる。3rdシーズンOVA販促キャンペーンであるマリみてプロジェクトと連動して本編の盛り上げ方も引っ張ってきたという観点からも、そろそろ(3rdシーズン刊行もそろそろ着地への時期)、決着の時です。
◇
◇今巻の面白表現
・冬の乾燥なんて何のその。お肌はしっとり。髪の家もサーラサラ。(P19)
祥子さまの美貌を形容する語彙も尽きてきたので、緒雪先生ノリで形容する文書を書いてるんじゃないかと思った瞬間。「サーラサラ」の辺りがイキイキとしてる。
・瞳子ちゃんは、熊でも一頭倒してきたみたいな荒々しい息づかいで、祐巳を睨むように見据えていた。
「熊でも一頭倒してきたみたいな」がヒット。去年の、僕的ベスト形容詞です。
◇今巻のホワホワ
・「さん」無しで、「乃梨子」と瞳子から呼ばれるようになった乃梨子(P44)
二人の仲が一レベルステップアップ。乃梨子、瞳子、ホワホワ!ホワホワ!
・由乃に噛みつかれる志摩子さん(P124)
ちょ、ちょっと言ってみただけなのに……と内心しゅんとしていたに違いない。
◇志摩子さんのカードの在処
すいません。推理できませんでした。作中で祐巳のクリスクロスと瞳子のクリスクロスがニアミスしたようにはいかなかった。僕の想いが志摩子さんのクリスクロスに届くことはありませんでした。作中で提示されてる7文字中6文字のヒントは、「ま、る、た、く、の、<ウサギの絵>」。わ、分からない。それでいて、「地図散歩」より「時間によって状態が変化する場所」。わ、分からない。ある時間になると仰向けになるウサギのお腹に張り付けてるとか?これ、WEB上では予想・推理飛び交ってるのかもしれませんけど、僕はまだ一切見てません。自分で情報収集するのはしんどいので、有力な説を知ってて根拠付で教えて下さるかたいらっしゃいましたら、コメント欄にてお待ちしています。いや、日常の徒然で時々僕も考えてるんだけど、閃かない。うーむ。
されど、この、
祐巳は思った。だって自分たちは今、間違いなくすごくワクワクしているんだから。<中略>志摩子さんは、いったい地図のどこに×印をつけるのだろう(P195)
は重要場面だよなぁ。瞳子がネガティブに捉えてた白地図に書き込んで何かを作る行為を、祐巳は「ワクワクしてる」とポジティブに捉えているんですよ。白地図に書き込むことは未来の選択権を抹消するネガティブなことではなく、自分の意志で地図に書き込んでいく(その手始めとして×印(クリスクロス)を付ける)ことは、未来を自分で選んでいく楽しいことなんだよ……と、ポジティブに裏返しているのが今巻です。そんな楽しい未来が祐巳と瞳子でようやく重なりそうで……と、やっぱりマリみては良いはー。次巻も、ワクワクしながら待ちます。
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発売直後に自分のとこで書いた予想を書いてしまうのも芸がないのでさらに略して、自分の予想としては「ウサギ」に関係した人が「パラソルをさして」にいたような……? あと、6文字中5文字+1絵柄 というヒントだったと思います。5文字を並べ替えてあるものを示せば……的なとこで。
これだけ書いてて外れたら悲しいものがありますが(笑)