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 それは、私が『タケシマツタコ』ではない、からだ。

 以下、『マリア様がみてる』新刊『フレームオブマインド』の、相変わらずの長い(笑)ネタバレ感想です。
 ◇

 今回は雑誌コバルトに掲載された短編が中心の短編集ということで、僕は雑誌掲載時にじっくり読んで感想も書いてるので、基本的にその時の感想の再掲記事になります。今回の文庫化にあたっての書き下ろしの、「光のつぼみ」「A Roll of Film」だけ別個今回用に感想を書きました。

 それでは、以下、掲載順にどうぞ。

●四月のデジャブ/感想

 「いちごさんはいちごさん。お姉様ができたとしても、私たちの友情は変わらないでしょ?」

 ミステリの形式としては、一人称の語り部の主観の方に問題があるタイプのトリックが仕掛けられてるタイプのお話。あんまりコバルト読者層と重ならないような気がするけど、『京極堂』シリーズとか、『ひぐらしのなく頃に』なんかで使われてるタイプのトリックと言えば、知ってる人には分かりやすいでしょうか。

 今回も主人公で一人称語り部になってる鈴本いちごさんは、事故によって長期入院していたという設定上、主観がちょっとあやふやな所があって、それゆえにデジャブという怪奇を呼ぶんだけど、まあ、『京極堂』シリーズや『ひぐらしのなく頃に』ヨロシク、最後はその怪奇が、現実的なロジックで主観の方にこれこれこういう齟齬があったんですよと解体されて終わるという、そんなミステリですよ。

 そんな、語り部のいちごさんの主観を惑わす最大のトリックが、鈴木二葉さんと鈴木一絵さんが本当の姉妹だったという、双子トリックばりにミステリ的に必殺技だったのが熱いです。しかも、姉の一絵さんの方が一年で成長して手足が伸びてたからパっと見分からなかったとか、かなり必殺技的。

 でも、今回の短編では「デジャブ」というギミックで描かれてますけど、内容は『マリア様がみてる』で何度も繰り返し描かれてきたリフレイン演出が使われたお話ですね。幾年の時を超えて想いが受けつがれてきてるリリアン女学園という舞台設定を生かして、過去と、現在とでイベントがリフレインして、その時の流れの中で伝えたいテーマを浮き彫りにするという、例の手法です(代表的なのだと、『いばらの森』で、過去の学園長と須加星さんの関係と現在の聖さまと栞さんの関係をリフレインさせてお話を展開したのや、『パラソルをさして』で、過去の祥子さまのお祖母様と弓子さんの関係と、現在の祐巳と祥子さまの関係をリフレインさせてお話を展開したのなど)。

 今回は一年間という短いスパンですが、一年前のいちごさんと一絵さんの関係と、現在のいちごさんと二葉さんの関係がリフレインされて描かれ、最後に一年前に一絵さんからかけられた言葉と同じ、

 「いちごさんはいちごさん。お姉様ができたとしても、私たちの友情は変わらないでしょ?」

 の言葉を今度は現在において二葉さんからかけられることによって、テーマを浮き彫りにしているという。

 一番伝えたかった部分はこの台詞に凝縮されてるんでしょうね。『マリア様がみてる』では、その一人に入れ込むあまり、視野狭窄になって嫉妬に陥ってしまう状態がちょっとネガティブに描かれて、そこから回復する過程を物語として描くお話が多いので(代表は『レイニーブルー』〜『パラソルをさして』)、今回も、一瞬そんな視野狭窄による嫉妬心にかられてしまったいちごさんが、リフレインされて二回も届けられた、個として自立した友情を喚起する台詞によって、嫉妬状態から解放されるお話です。何気に、嫉妬の克服法としては『マリア様がみてる』は到達点を描いていると思います。『くもりガラスの向こう側』にあった由乃の、

 「気持ちをしまっておく部屋が違うんでしょ、それは」(島津由乃)

 の台詞なんかに通じる所ですが、心の中に部屋が一つしかなくて、その部屋を一人の人でいっぱいにしておきたいという見解にたってしまうから、その大事な人の心の部屋に自分以外の誰かが割り込んでくると嫉妬してしまうんですよね。

 ところが、『マリア様がみてる』で提唱してるのは、心に優劣の無い複数の部屋を持っているという内面観。今回で言えば、一絵さんにしろ二葉さんにしろ、一つの部屋に自分以外の人が入ってくるのが許せない!嫉妬しちゃう!という状態だったいちごさんに対して、一絵さんと二葉さんからリフレインされて届けられた言葉によって、お姉様が入ってる部屋と、友だちが入ってる部屋は違うじゃない、だから、嫉妬なんかしなくていいのよ?という気づきがいちごさんに与えられるお話。なんか、一見ドライな感じも受けるけど、物語を通して丁寧に描かれてるだけに、こういう人間関係観いいよなーと思って、最近は僕も共感しながら読んでます。やっぱり、『マリみて』はいいなー。

●三つ葉のクローバー/感想

 静かに見守るマリア様に、どうしても聞きたかった。
 どうすれば幸せになれますか。


 今回も堪能いたしました。ちょっち、ささやかな幸福論が入ってる話でしたよ。それもあくまでマリみてらしい感じの。

 象徴されてるのは、それぞれ

 四つ葉のクローバー:山百合会メンバーらスーパースター達、朱祢(あけみ)さん、のような凄い人達
 三つ葉のクローバー:立浪繭(今回の主人公)、田沼ちさとさん、みたいな普通の人達

 って感じですね。

 で、繭は背伸びして四つ葉のクローバーになろうと、「三つ葉の妹を四つ葉に変えてしまうしまう特別な姉が存在する」という独自の考えのもと、他所の姉妹関係を破綻に追い込んでまで自分を四つ葉に変えてくれる姉を捜すんだけど、物語を通して最終的には三つ葉も受容する方に着地するという話でした。だから最後に、

 髪留めを外されて自由になったクローバーは、どれも三つ葉のままにそよいでいる。
 きれいだな、と私は思った。


 で結ばれてるんですよね。なんか縛られていたモノがとれて自由になったら、三つ葉でもきれいに思えたという。キレイなエンディングです。

 また、やっぱりマリみてはユートピアエンタメというか、優しさに溢れてますね。目指せ四つ葉!と高々と上昇志向を掲げて主人公が突き進んでいく話も沢山ある昨今において、あえて、四つ葉の人に完敗して、そんな四つ葉に完敗した自分に清々しさを感じてしまう三つ葉を受容する話を書いておりますよ。

 妹を魅力的にする姉が存在するという最初の繭の考えが裏返る形で、逆に姉の方を魅力的にしてしまう四つ葉の朱祢さんが現れて、繭が完敗、逆にその完敗を清々しく思ってしまうというくだりは分かる感じ(この清々しい完敗というのを描くために繭はちょっとトゲのあるキャラとして始まってるんじゃないかと。トゲのあるキャラが清々しく完敗の清々しさを認める所が清々しいんで)。確かに清々しい完敗というのはありますよ。

 その清々しい完敗を繭と共有する形で、同じくバレンタインデートで令の中の由乃に完敗した田沼ちさとさんを持ってきたのもサブキャラを上手く出して本編読んでる読者にはニヤリという感じでした。

 四つ葉の世界の山百合会メンバーが中心で進んでる本編、最初は祥子さまに憧れを持っていた祐巳という話も、祐巳は三つ葉だったと捉えられるんですが(そして今回少し書かれたようにいつの間にか祐巳自身の四つ葉へと変わっていくんですが)、そういう三つ葉の目線からの四つ葉の人達というのを、本編とは別の視点で切り取って描いてくれて面白かったです。祐巳が四つ葉になっていったからといって、三つ葉の人達が否定されるわけではない。三つ葉もきれい。これぞマリみてという感じでした。

●枯れ木に芽吹き/感想

 私は、写真を脇に置いて大学の教科書を開いた。なぜだか、無性に勉強がしたくなった。

 意表をついて内藤笙子ちゃんのお姉さんの内藤克美さんが主人公……とみせかけて影の主人公はやっぱり蔦子さんだ!な最新短編感想。今回も堪能しました。

 ◇

 コアなマリみてファンなら、読み終わった後にいそいそと本棚から『バラエティ・ギフト』を取り出してきて、同じく笙子ちゃんと克美お姉さんのお話である「ショコラとポートレート」を再読して幸せに浸るわけですが(挨拶)

 もちろん、僕はやりました。「ショコラとポートレート」を読み直してからまた今回の「枯れ木に芽吹き」を読んで……と、どっぷり内藤姉妹DAYになってしまった本日です。

 ◇

 全体的には、原作なら「紅いカード」、最近の短編なら「三つ葉のクローバー」にも通じる、凡人視点からの凄い人に対する感情の持ち方を描いたお話だと思いました。凄い人達……「三つ葉のクローバー」風に言うなら「四つ葉」の人として今回は江利子さまがいて、そんな「四つ葉」な人に対する凡人(「三つ葉」)の悶々とした気持ちを描いて、それが昇華されるまでを描いたお話。

 江利子さまというデフォルトハイスペックの「四つ葉」人間を意識して、負けないように猛烈に勉強に打ち込む高校三年間を送ってきた克美さんなんだけど、そうした姿勢にはどこか無理もあって、「ショコラとポートレート」の序盤で描かれてたような、古い産業時代のガリ勉みたいな心の貧しさを見せてしまう時がありました。けれど「ショコラとポートレート」のラストで本当は高校時代にやりたかったことの残滓を追いかけて受験の後にバレンタインイベントで浮かれるリリアンにチョコレートを買って戻ってきたように、どこかで孤高の勉強家ではなく、もっとゆるやかに笑って生きたい想いを消せずにいるキャラというのが克美さんでありました。

 今回は、そんな克美さんがリリアンを卒業して1年目の正月、江利子さまへの競争意識で頑張ってた克美さんの高校三年間の物語が江利子さまの美大進学という、なんとも勝ち負けが決まらないオチになってしまって、どこか燃え尽き症候群気味に「枯れ木」状態になっていた克美さんが、「神社のお守り」と「写真」というちょっとした小道具を通じて江利子さまと再接触することによって、江利子さまへの想いが再構築され、ちょっと気持ちが昇華されて「芽吹く」までを描いたお話。

 ラストに江利子さまの存在が克美さん自身が作り出してた幻影とも言える「競争相手」から、普通の「友人/クラスメイト」へとステップアップして、そんな江利子さまと肩を並べて歩けるように勉強するんだ……と、「ショコラとポートレート」までは「無理してる」という感じで負の要素の色合いが強かった「勉強」が、非常に前向きな意味合いに裏返るのが清々しかったです。うん、やっぱり勉強はそういうポジティブな動機でしないとね。

 ◇

 と、普通に読むとそういうお話なんですが、それより何より、このお話は「ショコラとポートレート」と同じく、「写真」という小道具を使って、「ショコラとポートレート」の時は笙子ちゃんを、今回は克美さんをステップアップに導くポジションにいる蔦子さんがめちゃめちゃカッコいいです。それぞれに抱えたものから笑って写真に写れなかった姉妹の、フとした本当の笑顔の瞬間を捉えた写真を撮る蔦子さん。そんな写真がめぐりめぐって本人のもとに届き、ああ、自分、こんな風にも笑えるんじゃん、こういう側面もあったんじゃん……と自分を見つめ直すきっかけになって、気持ちの昇華に繋がる……と、この辺りは何やら不思議な縁を描くことが多い、実にマリみてらしい流れでした。そんな不思議な縁を取り持つキーパーソンとして、後ろにひっそりと、だけど存在感を持って君臨している蔦子さんがとにかくカッコいいのでした。

 ◇

 と、蔦子さん燃えでしめくくるべきお話でもあるんですが、それ以上に内藤姉妹萌えでしめくくりたくなってしまうお話でもありました。なんだよ、この、笙子ちゃん→蔦子さん、克美さん→江利子さま……へのLOVE光線は。もう、気になって気になってしかたないんだよ。克美さんが可愛い。江利子さまのことを悶々と想像して、競争相手に仕立て上げたり、自意識が押さえられなくて「お守り」というキーを自ら送ってしまったり、そして、ほんの15分余りの会話を噛みしめてたり。どんだけ江利子さまのこと好きなんだと。あとは最後のページの笙子ちゃんの絵が可愛い。一匹狼風な蔦子さんを師とあおぐゆえにクールな関係なのよ……と気取りたい所なんだけど、本当は好き好き光線を放ってしまってるという一人ギャップが可愛い。そんなこんなで、内藤姉妹可愛いなぁ……というのが今回のお話のまとめ感想なのでした。ハッ、これもちょっと亜種だけどストロベリ姉妹ッ!?

●黄色い糸/感想

 「選んだ理由? そうね。私はあなたのことを、まだほとんど知らないけれど、あなたといると、楽しそうだから」

 未だ語られていなかった江利子−令の黄薔薇ラインの出会い編。構成としては蓉子−祥子の紅薔薇ラインの出会いを描いた『マリア様がみてる プレミアムブック』収録の「Answer」の裏という形になってます。

 「Answer」と同時間軸を江利子視点から描いた話なので、「Answer」を読んでおくと楽しさ倍増です。「妹候補のめぼしい新入生リスト」、「江利子が剣道部を見学」、「新入生歓迎会でのおメダイ授与式」といったイベントが「Answer」と「黄色い糸」で共通して描かれます。それぞれ妹選びに関して、「Answer」では蓉子が、「黄色い糸」では江利子がそれぞれ聖とそのことについて会話してるなんていう、初代薔薇ファミリー好きにはたまらないシンクロ演出も。
 聖と江利子の会話は面白いわりには稀なんで嬉しかったですね。『いとしき歳月』のでこちん事件に関する会話のシーンと、『バラエティギフト』の「毒入りリンゴ」での会話シーンくらいじゃないかな、今まであった主立ったのは。今回また増えて嬉しいです。

 結局の所つねに「面白いこと」を探してる江利子さまの目が令にロックオンされていく様が描かれてる話なんですが、黄薔薇ファミリーらしくどことなくコメディ調になってます。「料理」「時代小説」「少女小説」「体育」なんていう、バラエティに富んだ本を借りようとする令を江利子が目撃するシーンなんか、上手く客観的な令の「面白さ」が伝わってくるイイシーンだと思いました。本編だとそんなに感じないんだけど、まだ令との関係性ゼロの江利子視点を借りてこうやって客観的に見せられると令もかなり面白い素材の人だよね。

 決め手となるロザリオ授受のシーンは、引用したとおり、ストレートに「楽しそうだから」「面白そうだから」というぶっちゃけトーク。近刊の有馬菜々まで流れる黄薔薇スピリットです。「Answer」にて蓉子が「祥子の探している『何か』を一緒に探してあげたい」なんていう文芸チックな動機で祥子に関わったのと対照的です。同時間軸を舞台にシンクロ演出で紅、黄と描いてるだけに、このラストシーンの対照性がステキ。楽しく、面白くの黄薔薇魂でいいじゃない。最近マリみてのコメディ要素を担ってる黄薔薇ファミリーです。

●不器用姫/感想

 「でも、悪い顔じゃないわ」

 寛美さんのフィルターを通して見ていた寛美さんとミケの関係性と、ミケが感じていた寛美さんとミケの関係性はまったく違う形だった。

 自分のフィルターを通しただけのイメージ優先の思い込みの関係から、徐々に段階を経て人間関係が進展していくのを描くのがマリみてですが、これは、自分のフィルターからみた思い込みの段階で人間関係が破綻してしまったお話ですね。一方的なのは良くないからこそ、近刊では祐巳は瞳子の心の扉を開けるのにあれだけ繊細な段階を踏んだわけで。

 そういった流れの失敗ヴァージョンと捉えると面白い話かな。

●光のつぼみ/感想

 名前を覚えてもらえるのは、いつの日だろう。

 祐巳と可南子は『涼風さつさつ』以前にニアミスしていたというお話。これまで描かれてこなかった、可南子が祐巳のストーカーを始めるきっかけのお話とも言えるのかな。

 『レディ、GO!』の中で瞳子が可南子を被害者ぶってるのが気に入らないというような趣旨のことを言うシーンがありましたが、その後瞳子自身も可南子に劣らない負荷を抱えていたのが明らかになった近刊まで発売された現在から見ると、結局最初の方の瞳子と可南子の不和は、同族嫌悪だったわけですよ。嫌悪し合っていても、同族だから同じように祐巳に惹かれる。その点が分かりやすく切り取られていた短編でした。

 そんな翳りを抱える二人にとって祐巳は太陽扱いで、「光のつぼみ」とまで呼称されています。祐巳も凄い存在になったなぁ。もっとも、そういった要素こそが、序盤の巻から分かる人だけが見抜いているというように作中で描かれていた(例えば蓉子さまや聖さまは見抜いていたかのような描写がある)、一見平凡な祐巳が宿している誰にも負けない希有な特性の一つだったりするわけですが。

●温室の妖精/感想

 古い温室には、妖精が棲んでいる。

 この手の話は、ファンタジーな事象(この話だと温室の妖精)に関して、やっぱり神秘的なモノだった!と、世の中不思議なこともあるよねー的に結論づけるパターンと、神秘に見える事象も、人為的に解体することは可能だ!というミステリの解決編のノリで結論づけるパターンと2通りあると思うんですが、「温室の妖精」は人為的に解体可能と明らかになるパターンでした。妖精っていうか人だった

 ただそのベールを取られてしまったファンタジーも、その実態は善意に満ち満ちた種明かしだったのがマリみてらしいです。ここまでユートピアちっくなリリアンという空間そのものが一つのファンタジーです。妖精は3年生の妖精が卒業してもまた新たな新入生の妖精が……というように、世代交代をしながら連綿と続いていくというラストで明かされる答えも、姉妹制度の設定を軸に、卒業による世代交代を繰り返しながらリリアンに流れてゆく連綿とした時間、想い、という部分のマリみてのテーマに重なって心地よかったです。

●ドッペルかいだん/感想

 「気をつけてね、水奏ちゃん。ドッペルゲンガーを見ると、数日後に死ぬって話よ」

 夏なので、ああ夏なので。やっぱりこういう話がイイんじゃないでしょうか。

 去年の8月号に掲載された「温室の妖精」が、ファンタジー要素の話と見せかけて実は人為的に種明かしされる話だった!というお話だったのに対して、今回の「ドッペルかいだん」は逆に人為的に種明かしされるのかな?と思わせておいて、ファンタジー的にボカされて終わった!というお話でした。

 校門をくぐる時に最初の時も8人とカウントされたのは何故なのか、アリコという存在は何だったのか、いつの間にか消費された数枚のフィルムは誰が撮ったものだったのか……など、様々な謎が、まあ夏だからという感じでファンタジーにボカされたまま余韻を残して終了……というお話でした。

 ……だよね?(ちょっと自信なさ気に)

 も、もしかして、様々な推理材料から推理すれば人為的な現象として分かる人には分かるように描かれてるお話なのかしら?庚申塚(こうしんづか)とか、なんでアリコはいちご牛乳を買いにいったのかとか、アリコは宿舎の方じゃなくて銀杏並木道を走っていったとか、なんか、怪しい描写は多々あるんですが、しばらく考えてみたけどそれぞれのピースはハマらず。やはり、ファンタジー余韻オチの短編かぁと解釈するに至ったわけですが。

 「黄薔薇まっしぐら」とか「おじいさんと一緒」とか、緒雪先生は結構ミステリ風味に展開していくお話を書く方なので、今回も謎が重なっていく感じが面白かったです。舞台がリリアンというユートピアなんであんまり怖くはなかったけどな!

 「かいだん」は結局「怪談」「階段」「会談」を全てかけたものでした。「階段」はほとんど力業で入れた感じですが、怪談の会談は上手いと思いました。

 最後にドッペルかいだんの経緯をふまえて水奏が涼子さまの妹になる決心をするくだりで締めてるのは、姉妹の契りがキーエピソードの『マリみて』の短編らしくて好き。最後に蔦子さんがちょっと出てくるのもファンサービス。心霊写真は対象外というのも蔦子さんらしくてイイ感じでした。

<追記>

 掲載当時のコメント欄で情報頂いてなるほどと僕は思ったんですが、今回の文庫化にあたっては、「フレーム オブ マインド IX」にて、よりアリコの正体が有栖川アリスだと分かる人には分かる感じになってますね。これ、掲載当時はパっと読みでは分からなかったんだよなー。この前の『クリスクロス』での志摩子さんのカードの在処も自力では分からなかったし、僕は緒雪先生の簡易ミステリに翻弄される人生を送っています。

●A Roll of Film/感想

 わずか七文字の片仮名を書いただけで、こんなにドキドキするなんて。

 今回の文庫版の幕間劇の解答編の短編。『バラエティ・ギフト』『イン ライブラリー』共に幕間劇は簡易ミステリで引っ張ってましたが、今回もフィルムの所持者と不審な行動を取る内藤笙子ちゃんという謎で引っ張ってましたね。

 それにしても、蔦子さんを撮影するという話になって、トイレで一人ドキドキしてる笙子ちゃんはヤバイ。蔦子さんの方はわりかしそっけないんだけど、笙子ちゃん→蔦子さん側の感情はがっつり百合的。

 たぶん、相合い傘で好きな人の名前を自分の名前の隣に書くとか、好きな男の子の苗字の後ろに自分の名前を書いてみる、とかくらいのドキドキにそれは匹敵するはずである。

 超意識してる(笑)。

 最後の内藤笙子ちゃんのイラストが異常に可愛く、もう、なんというか、ごちそうさまでした

 ◇

 という感じだった今回の短編集。文庫版のみの読者には残念で、僕のようにコバルト全部取ってる読者は優越感に浸れる所としては、文庫版にはコバルト掲載時に載ったイラストが全部載ってるわけではない点。『枯れ木に芽吹き』の克美さんのイラストや笙子ちゃんのイラスト、めっちゃステキなのに、そこは文庫版だけの人残念な所。僕は、コバルト全部取ってるからいいけどね。

 しかし、ここ数年コバルトに載ってた短編は、全て写真がキーアイテムに使われてたというのは気付かなかったなぁ。何か、蔦子さんが沢山出てくるなとは思ってたけど(笑)。

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入浴志摩子さん発売後確認したら髪を下ろした祐巳でした(笑)

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