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 僕は、天国と極楽は同じ場所だと信じられた。そこは、宗教なんて区別のない世界でなければならなかった。

 以下、『マリア様がみてる』新刊『マーガレットにリボン』の、相変わらずの長い(笑)ネタバレ感想です。
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 『バラエティギフト』、『イン ライブラリー』、『フレーム オブ マインド』に次ぐ短編集だった今巻。ただし、全短編が書き下ろし。

 という訳で、今回は各短編ごとの個別感想です。

●デビュー

 リリアン卒業後の、大学での水野蓉子さまのお話。

 お互いの第一印象に引っ張られて表面だけを見てコミュニケイトしてる気になってると、そこにディスコミュニケーションが発生する→物語を通してディスコミュニケーションが緩和されて相互理解へ……というのが、初期『マリア様がみてる』のお話の型だった訳ですが(1巻の、表面的な祥子さまのイメージに引っ張られてディスコミュニケーションに陥った祐巳が、物語の末に最後に相互理解に達して祥子さまとスールになるという辺りがその型の代表)もう、そのタイプのお話も書ききってきたがゆえか、同じ物語の型を踏襲しつつも、コミカル感が漂う短編に仕上がってました。

 川藤さん、日村さん、徳永さんという蓉子さまの同級生の新キャラが、それぞれ優等生、派手な外見、家庭教師のバイト……という虚飾で表面を覆っているんですが、そこから今までのシリアス目のエピソードみたいに深刻なディスコミュニケーションに発展するかというと、そうでもなく、それぞれ、実は優等生だったのは友人、実は田舎訛りの素朴な人、実は二児の母……と、あっけなくオチがついてちゃんとしたコミュニケイトに達するお話でした。

 蓉子さまが、大学デビューしようとして聖さま&祐巳ちゃんのキャラでいこうと無謀極まりない作戦を当初立てているんですが、それもあっけなく撃沈で、蓉子さまは表面も内面もねっからの優等生。

 この辺りは、祥子さま(表面:気高きお嬢様、内面:ちょっとヒステリー)、令さま(表面:剣道の達人の男性的麗人:内面:コスモス文庫が好きで編み物と料理が上手な女の子)、由乃(表面:儚げな女の子:内面:爆弾娘)……みたいな感じで表面と内面にギャップがあるがゆえに誤解が生じてディスコミュニケーション発生という風にお話を創っていた「無印」や「黄薔薇革命」に想いを馳せると、蓉子さまっていうのは、もとから表面も内面も一致していて、ディスコミュニケーション話に揺れることがないキャラクターでした。聖さまや江利子さまにしても表と裏の不一致から一種のディスコミュニケーションになるお話はあったので、そういうのを超越していた辺りが、三人の卒業話で、全員から蓉子さまにリスペクト視線が集まった背景だったのかも。

●ライバルがいいの

 バラエティギフトから示唆されていた、江利子さまと山辺さんの娘さんとの対面話。

 女子大生と幼児という構図はコミカルですが、地味に『マリア様がみてる』らしい、二人の女性が相互理解に至るまでの物語という印象を受けました。まだ今回では江利子さまと亜紀ちゃんの相互理解までは達成されていませんが、そこに行き着くまでの物語がサイドストーリーとしてはじまったという感じです。江利子さま、幸せになってくれるといいなぁ。

●フィレンツェ煎餅を買いに

 『裏・チャオ ソレッラ』といったお話。「銀杏の中の桜」と「BGM」とか、一つのお話を表と裏で物語るという手法は結構マリみてには出てくるんですが、幾年の時を超えて、ついに『チャオ ソレッラ』時のインコの謎などが「裏」の話で明確に明かされました。

 至極バカバカしいお話ではあるんですが、卒業の時に祐巳を見てもう一度学生をやってみたくなったという聖さまが、今回ちょっとモノローグしてるように、栞さん問題で失われていた学生の時間を、イイ感じで取り戻しながら満喫してるようで微笑ましかったです。

●「さん」付け問題

 いつになったら祐巳達の代は「さん」を取って名前で呼び合うようになるのかというのはファンの間では長い間注目のポイントだったりしたんですが、公式でセルフツッコミが入ったお話でした。

 時間軸が瞳子が祐巳の妹になる前なので、例の、祐巳の瞳子の呼び方が「瞳子ちゃん」から「瞳子」に変わる悶え悶えシーンに繋がるお話でもありました。悶えるから、こっちも名前で呼んでくれていいんですけどね。

 あと、一度だけ、「パラソルをさして」で、由乃が祐巳のことを「祐巳!」って呼び捨てにして抱きついてるのもポイント。今回は照れてるけど、由乃は一回やってるんですよ。なので、今後も名場面で名前呼び捨てが出るというのはアリです。

●僕の兄妹

 ヤバイくらい泣いてしまった短い短編。

 志摩子さんの信仰心の土台は今まで明かされていなかったんですが、意識的か無意識的かはまだ分からないんですが、キリスト教は本当のお母さんとの絆だったんだ。

 そして、『マリア様がみてる』では、「いばらの森」〜「白き花びら」での学園長と須賀星さんの関係を、時代を超えて聖さまと栞さんがリフレインしたり、「レイニーブルー」〜「パラソルをさして」で、祥子さまのお祖母さまと弓子さんの不和〜和解のお話を祐巳と祥子さまが時代を超えてリフレインしたりと、この時代を超えて人間関係がリフレインして、少しだけテーマを前に進めていく……という手法が良く取られるんですが(リリアンという古い学園を舞台に、時代を超えて色々なものが受けつがれていくというマリみてのテーマと密接した手法と思われる)、この仏教の准至さんとキリスト教のユリアさんの恋愛というのを、仏教の家なのにキリスト教を信仰している志摩子さんとキリスト教の学校に通ってるのに仏像好きな乃梨子との関係というのを使って、ここでもまたリフレインさせていたんですね。そうして、仏教とかキリスト教とかを超えた相互理解の是というテーマをより強調しているという。今回の短編が加わったことで、「銀杏の中の桜」のラストシーンがより奇跡に見えます。お父さんとお母さんを別ちた壁を、志摩子さんと乃梨子は仲間の協力で無効化することができたんだなぁ・゚・(ノД`)・゚・。

●ユミちゃん絵日記・未来編1

 蟹名静さま登場回ですが、先代薔薇さま卒業時に、

 「私は今日も明日もいつもと変わらぬ日常でありたいの」(蟹名静)

 の名台詞を残していった静さまだけに、祥子さまの卒業を控えた祐巳に対して、メンターポジションでメッセージを伝えにきた感じですかね。学校の卒業にしろ、人生の卒業にしろ、静さまとしては変わらない日常の一つとして過ぎていく。何を卒業しても、世界の方はちゃんと連綿と続いていってくれるし、築き上げた絆は絶対になくならない。やはり、静さまは超絶にカッコ良すぎるのでした。

●ユミちゃん絵日記・未来編2

 「くもりガラスの向こう側」での元旦お参り話の回収回。あの時はくもりガラスの向こう側にいた瞳子が、今度はちゃんと祐巳の側にいて良かった良かったという感じです。

 ゆ、祐巳と瞳子はもうちょっとイチャイチャしてくれてもいいんだぞ?

●青い傘の思い出

 名エピソード「パラソルをさして」の補強エピソードみたいな感じでしょうか。

 あの時、様々な外世界に生きる人々の手を渡って戻ってきた青い傘を手にして、世界は祐巳と祥子さまだけで成り立っているのではない、視野を広げなきゃと祐巳が悟って急激な成長を見せた訳ですが、そのバックボーンとなる、祐巳と祥子さま以外の、それを取り囲んでいる世界に生きている様々な人達の物語。

 後半の、大学卒業後の恋愛話が描かれている辺りが、今度リリアンを卒業してしまう祥子さまや、もう卒業してしまった蓉子さま達の物語も、まだまだ続いていくんだという示唆でしょうか。前巻「キラキラまわる」に顕著でしたが、色々なものに守られていた学生時代という児童世界はやがて終わりを告げるけれども、その後も私達の物語は続いていくんだということが卒業話をキーに最近の話ではあぶり出されています(そして、だからこそ児童世界に身を委ねられている「今」も尊いんだということも)。

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マリア様がみてる OVA ファンディスク 第1巻

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