「だがこれは終わりではない。始まりだ」(謎の敵)

 スイートプリキュア♪第29話「ハラハラ!メイジャーランドで宝探しニャ♪」の感想です。
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 今回の見所ベスト1。

第1位:分断作戦

 第19話にセイレーンさんがやったごとく、今回現れた謎の敵まで「プリキュア達を異空間に分断」する作戦を慣行します。折しも、震災前に制作は完了していたという『映画プリキュアオールスターズDX3』で敵さん達が慣行する作戦とも同じです。とにかく、分断してバラバラにしてしまえばいい。それを乗り越えるなんて、無理なんだから。

 話変わって、最近刊行された『思想地図β2―震災以後』という雑誌がありまして、ちょっと現在Amazonでも手に入らない状態ですが、今月半ば辺りには増刷完了するらしいので、手に入るようなら読んでみて欲しい。

思想地図β vol.2
思想地図β vol.2

 少し前までは日朝タイム(主に平成仮面ライダーさん)を題材にゼロ年代批評と呼ばれる批評なんかも展開していた東浩紀さんの、"震災でぼくたちはばらばらになってしまった"という巻頭言から始まる書籍です。個人的には、滅多に出会えない今これ読まないで何読むのレベルの書籍。

 で、話戻って、僕はこれを読んで、改めて、というかようやく『スイートプリキュア♪』は"失われた連帯を取り戻せたなら"、という「願い」の話だったんだなと腑に落ちたのでした。認識によって見え方が違う問題とか、耳をふさぐ"ノイズ"とかのギミックも、そこを目指したいがために作中に盛り込まれているのだろうと。

 一昔前の共同体は壊れたし、クラスタとか島宇宙とか、呼び方はなんでもいいんですが、みんな自分の興味がある対象に閉じこもってしまって大きい連帯とかは消失したし、経済格差は文字通りみんなをバラバラにしようとする力学が働きます。そういう前提の、震災前にNHKとかで取り上げられて話題になった言葉を使うなら"孤族"的な社会。そういう世の中に生きてる劇中の代表者が、物語冒頭では独りぼっち感が半端ない響さんや、ぼっち感を一歩昇華するのにえらい時間がかかったエレンさんなんだろうと。

 自分が思った桜だけが真実だと思いこむ態度は、自分が思ったクラスタや島宇宙にだけ閉じこもる態度に似ている。耳を塞いでしまう"ノイズ"のギミックは、その自分だけの孤独に閉じこもってしまう比喩に見える。第1話の伽藍になった調べの館に一人ポツンといる響さんは、連帯を消失した孤族時代の少女に見える。

 そんな状況に対して、"同じ音が聴ける"、または"聴いていた"、"もう一度みんなで聴けることがあるのかもしれない"というのが、もしかしたらまだ可能なのかもしれない連帯の可能性、「願い」として機能しているのだと思うのです。

「レコード取り返そう、奏」(第1話)

 絶望的にもう連帯は難しい、ということを背後にみっちりと描いているだけに、テレビメディアの表面的に声が大きい「みんなひとつに」「オールジャパン」よりも重いです。

 ただ、それだけに、何度分断されても頑張ろうとする響さんの姿は熱い。というか、ようやく響さんにこれまでのプリキュアシリーズで感じていた"時代性がある主人公"要素を解釈できるようになりましたよ。

 そもそも三本目の桜を思いこんでいたのは響さん本人だし、ぼっち感半端なかったし、何故だか普通に生きてるだけで分断されてしまいそうになるんだけど、何とか繋げ続けようと頑張る。特に強い動機も描かれていないのだけど、奏さんと仲直りできた時のじわじわとしたはしゃぎようや、お母さんとの連帯を再確認できた時の嬉しさの描写が、きっとそれが尊いもの何だろうと行動する彼女の姿を十分に裏付けている。

 また、さらに熱いのは、バラバラにされていた時間にも意味はある的な展開をも盛り込んでいる点かと思います。『映画プリキュアオールスターズDX3』では、バラバラに分断されたパートでそれぞれが一歩成長を遂げ、再合流した時に、もう一歩進んだ連帯の強さを見せる、という構成になっています。スイートプリキュア♪本編も、願わくば取り戻したい連帯のためにふるっている響さんの腕力は、バラバラぼっち時代に身につけた筋トレによるものです。また、この子は孤独だったからこそ優しい感が半端ない。第6話の、自分はぼっちだからこそ家族や連帯のありがたさを知っている、自分にはもう手に入らないかもしれないけれど、奏のそれは守りたい、のミラクルベルティエ召還はここ最近触れたアニメの中のベストシーンの一つ。

 どこまで現実に思いを馳せるかですが(ストーリーの構成自体は震災前にできてたのだろうし)、連帯とか、もうそうとう難しいのだけど、アフロディテ様とメフィスト様とも一緒に同じ音を聴きたい、奏でたいとか、本当できるのかって感じなんだけども。また、そこまでして連帯しないと乗り越えられない危機的な状況が憂鬱でもあるんだけど。まだ全てを諦めたくはないので、頑張りたい(これ、終盤で「絶対、諦めない」がきたらマジ泣きしそう)。響さんは良い主人公。何だかここに来て残り20話あまりのテンションが上がってきたのでした。

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