という訳で、公開初日に観てきた『映画スイートプリキュアとりもどせ! 心がつなぐ奇跡のメロディ』の感想です。
 ネタバレを含んでおりますので、まだ観てない方はご注意下さい。
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 『映画スイートプリキュアとりもどせ! 心がつなぐ奇跡のメロディ』の見所ベスト6。

第6位:メフィスト様逮捕される

 奏さん(女子中学生)の寝姿を窓から覗き込んで、痴態容疑で逮捕されるメフィスト様という衝撃のオープニング。

 もう、これは、多少なりとも創作を志すものとして、「つかみの大切さ」を痛感させられました。これが一流のプロが放つ「つかみ」です。がっちり心つかまれたよ。メフィスト様が奏さんの部屋を覗き込むというシチェーションだけでつかまれたんですが、そのまま本当に逮捕されてまたつかまれました。いや、そこ本当に逮捕されちゃうの、的な。そんな風景が大事なオープニングで、普通に主題歌とか流れてるのもまた凄い。身元引き受け人に音吉さんがやってきて、そこ、嫁の父が担当なんだ! とか思ってたら、音吉さんがそのまま勢いで派出所を粉砕して、もう、これは凄いなと思いました。はぁ、つかみって、大事だよな……。

 また、「認識の齟齬で問題が起こるけど、何か事情があるのでコミュニケーションで真相に近づこう」ネタでもあって、無駄に作品のテーマにも繋がってるのであなどれない。メフィスト様はスイートの映画でよかったよ。話したらお巡りさん事情分かってくれたよ。GoGo!の映画だったらそのまま倒されてたかもだよ。


第5位:見え方は違う

 劇中で何組も、例の三本目の桜問題、「人によって見え方が違ってしまう」というスイートという作品の主題が描かれます。

 メフィスト様は、悪のボスから戻ってみたら、なんだかアコちゃんは以前と違う多感なお年頃になってしまっていた。みんなして、ヒーリングチェストのイメージが違うので滑稽なまでの認識の齟齬が起こる。そして、同じアフロディテ様について語っているのに、アコとスズさんでは話しがかみ合わない。まるで、第一話&二話以前の、響と奏の三本目の桜に関する話のように。同じものを見て語ってるはずなのに、認識がかみ合わない。音吉さん風に言うなら、「ズレ」とる。


第4位:何か事情がありそうだから関わってみる

 神託的にこの人とはコミュニケーション不能ジャッジが下される夢原さんとも、「深い事情は存じない」けど少しだけ手助けしてみる花咲さんとも、若干違うスイートカラー。TV放映の方のミューズさんの例なら、いきなり討伐もしないし、事情を存じぬまま助けもしない。とりあえず、何か事情があるんだろうと「知りたい」と深くコミュニケーションしてみる。

 そんな訳で、アコと不和になるスズさんにも何か事情があるんだろうと響さん達はスズと関わり、アフロディテ様にも何か事情があるのだろうと、アコとメフィスト様はアフロディテ様本人にコミュニケーションを取りにいく。地道だけど、とても正攻法な感じがします。


第3位:もう一度同じ音が聴けたなら――心の音楽

 価値観も多様化し、信じるものも違い、同じものの見え方も違い、バラバラになってしまった我々に対して、「昔、いっしょに同じ音を聴いていた」というのを手がかりに、あり得るかもしれないもう一度の連帯を願う、というスイートという作品。それは第一話で、バラバラになって不和になっていた響さんと奏さんが、「想い出のレコード」を取り戻すために再び手を繋いだように。

 劇中でも、何組かの「同じ音」をキーにした分断からの連帯の回復が描かれます。

●メフィスト様とアコ

 アコが物理音を遮断される空間に閉じこめられるというシチェーションの中、「アコが一番好きだった歌」というバラバラになる以前の真相を探り続けるメフィスト様。

 今作の回答は、「心の音楽」。

 例え物理音として同じ音が聴けないとしても、「心の音楽」までは消すことができない。心の音楽が消えていない限り、そもそも音楽は奪われてもいない。二人の心の中に、「アコが一番好きだった歌」という同じ心の音楽があるのなら、それは物理音が遮断されているとか、お父さんが悪ボスになってしまってバラバラになってしまったとか、そういう分断、認識の齟齬を越えて、二人を繋ぐパスになる。

●メフィスト様とアフロディテ様

 オチは後述しますが、とりあえずメフィスト様カッコよかったよ。やむを得ないシチェーションとはいえ、一度バラバラになって対立してしまったら、帰結はやっぱりどちらかが死んでしまうしかないのか? という状況を、力づくでブレイクしてみせるという。

 そもそも、バラバラになった家族が、合流するまでの話というのがご時世もあって胸にくるものがあった。災害のような危機の中、家族と連絡が取れない不安。家族とはいえ、見え方は違う問題がある以上、何でも分かる訳ではない。のだけど、それでも信じるということ。メフィスト様マジアフロディテ様のこと愛してるんだなというのが伝わってきた。TV本編序盤の、北条家はバラバラなんじゃないか問題から始まって、やがて家族の連帯を実感して響さんが救われるという流れも踏まえられていて、主人公の身の回りというミクロの家族の物語と、国家レベルのマクロの家族の物語がシンクロしていて美しいと思いました。

●アコとスズ

 これまた第一話、二話までの響さんと奏さんのように、認識の齟齬問題のために、一旦ケンカしてしまう二人。

 しかし、これも「同じ心の音符(型のアクセサリだけど)」を持ち続けていたという所で繋がって、連帯を回復します。今はバラバラになってしまったかもしれないけど、やはりあの日同じ心の形を分け合ったというのは、認識の齟齬だけでは片づけられない、ちゃんと通じ合っていたという一つの真実なのだった。

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 全体的に、「心の音楽」は熱い。

 例えば震災で、物理的にはバラバラになって、例えば「映画DX3」は僕の地域では全国と同時には上映されなかった。劇中でハウリングに物理音楽が奪われたように、災害に物理視聴環境が奪われたように思える。

 しかし、心の音楽まで奪われたか? と問われれば、7ヶ月経った今、同じ映画館でまたみんなでプリキュアの映画を見ている。日本中で見ている。バラバラではあるけど、もう一度同じものを見ることができる、という点で、やはり全てがバラバラな訳ではない。つまり心の中のプリキュアという音楽まで奪われたのかといえば、そんなことはなかった。これは文化一般に広げられる話。音楽、映画、漫画、アニメ、色々全部もうダメかと思ったし、事実物理的な観賞環境などは奪われたけど、心の中のそれらは死んでなかったからこそ、みんなまた見に行くし、また新しく作る。

 そんな、バラバラだけどバラバラじゃないんだ、という希望の象徴として、プリキュアが機能する。だから、映画館でプリキュア映画をみんなで見る、みんなでミラクルライトを振る、という行為自体が、とてもとても、既にこの作品の回答に視聴者も巻き込まれている、とそういうことだと思うのでした。


第2位:自分のビート、二人の音楽、開けた世界

 ここが一番良かったかな。

 今回は、何とミラクルライトでパワーアップ後に、もう一度ピンチに。ビートとミューズは落とされ、リズムは敵の手に、残るは響さんだけ。そんな響さんもついには大ダメージ。これは、もうダメだ。

 という所で、響さんの胸の心のト音記号が、心のビートがドクンとなる。こっちの方をラストクライマックスにもってくるのか! という感動。みんなの音楽、みんなの力を受け取ってパワーアップはよい、それは大事なこと。だけど、まず始まりは、やはり「自分のビート」なんだ。響さんは立ち上がる。

 そして、奏を返してもらう、という。文字通り奏さんを取り戻すという意味と、音楽としての「奏」を取り戻す、という二重の意味でしょう。

 そこで響さんがつぶやいている順番が熱い。奏を取り戻さないと勝てない、勝てないと、みんなの幸せを守れない。

 まずは自分のビートから始まる。それは絶対だけど、それだけでは孤独だ。だから、奏さんを求める。だけど奏さんだけを求めれば、それば外界と隔絶して二人だけの世界に閉じこもるセカイ系だ。そこからさらに、世界の、みんなの幸せを求める。ちょうど、TV版でも響さんがピアノ演奏によって広い世界の人達に笑顔を届けたいと想うようになったように。

 だから、クレッシェンドモードになりながらも、決め技は奏さんとの二人技で、ラストは四人技で立ち向かう。凄い、一人からどんどん広がっていく音楽の特性と、それらを主題に絡めた、「世界が広がっていく感」が出ていて良かった。スイートは、孤独にあえいでいた響さんが、まずは奏さんと二人に、そしてみんなに、と世界を広げていく話なんだと改めて思いました。またそれこそが、みんながバラバラになってしまった問題を改善していけまいかと願ったときに、正攻法なんだとも思いました。


第1位:また同じ音が重なる

 ラストシーン、アフロディテ様とメフィスト様の、「アコならそういうと思ってた」という言葉がハモって終劇。二人にとっての想い出のレコード相当がアコちゃん。長らく認識の齟齬のもとメイジャーとマイナーで戦うハメになっていたアフロディテ様とメフィスト様が、アコちゃんを媒介に同じ認識に到達する。ディスコミュニケーションが解消されて、二人で「ハモる」という所まで辿り着く(繰り返されていた「ハモる」描写は、「心の音楽が重なった」描写なんだと気付く)。メイジャーとマイナーが重なる、という所に辿り着く。家族の修復や分断の克服、認識の齟齬を乗り越えての同一見解(真実)への到達。全てがギュウギュウに込められていた、これで真・最終回といっても納得のラストシーンだと思ったのでした。

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→前回:スイートプリキュア♪第36話「キララーン!心に届け、ミューズの想いニャ!」感想へ
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