「まだ後夜祭まで時間はある」(二階堂くん)

 ドキドキ!プリキュア第32話「マナ倒れる!嵐の文化祭」の感想です。
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 今回の見所ベスト1。


第1位:街の人々

 『ドキドキ!プリキュア』で序盤から予感として物語に組み込まれていた、「マナさん=幸福の王子」としてバッドエンド(身をすり減らして他人を助け続け、本人は摩耗して最後は溶鉱炉行き)に辿り着く。……のを回避するには? という点の示唆が描かれた、作品全体でも渾身であろう一話。洗練された一話でありました。

 幸福の王子バッドエンド回避にあたって、二案が示されて、一案目は最初に亜久里が言っていたように、「みんなが強くなる」。自助努力という話で、正論です。ただ、その正論だけでは行き詰ってるのが現代世界でもあるわけで……。

 そして、おそらく作中の真解答であろう、二案目をマナさん自身が語ったのがこちら。去年の『スマイルプリキュア!』第19話のピースの語り並みにグっときたので、全部引用。


 確かに亜久里ちゃんの言う通り、みんな強くなれたらそれが一番かもしれない。
 でもね、私だって何でもできるわけじゃない。
 みんなそれぞれ出来ることとできないことがあると思うの。そんな時誰かを手伝ったり、助けて貰った時に、胸がドキドキするとか、キュンキュンするとか、そういう気持ちも、すごく大事な気がするの。



 あとでキュアエースがもう一回、正しかったのはマナの方(二案目)と付言しつつ、愛の相互伝導のことなのだという趣旨のことをダメ押しで語りますが、作品名『ドキドキ!』のおそらく真の由来も明かされた感じで、作品の収斂を暗示させた一話だったんじゃないかな、と。

 最近僕が書いてたドキドキ!プリキュアの主題は「リンクによるリソースの追加と調整だ」という話に寄せると、手伝ったり助けて貰ったりというのが、ヘルプ、リソースの追加で、それぞれ出来ることがあるという部分が調整、という話なのです。全員が強者にはなれないかもしれなくても、世界は「リンクによるリソースの追加と調整」で何とかなるように設計されてるのでは、という理想。そちらの方向に向かって進んで行けまいか、という提案。

 我々の現実を連想させるがごとく、楽しみな未来を夢見て構築していたものが、壊れてしまう、という後夜祭のキャンプファイヤーのやぐらが崩壊してしまう、という悲しい出来事が起こる。現実は厳しい。そして、幸福の王子一人ではなんともしがたい事態で、というか幸福の王子は過労で倒れている。

 そこで、二階堂くんが最初に立ち上がる。手伝えもも太、と。第一話から出ていた二階堂くんです。プリキュアでもない分かりやすいヒーローでもない、一般生徒、街の人、二階堂くんです。


 「会長も言ってただろ」(二階堂くん)


 第29話の疑似相田マナ的な人間体シャルルと、同じポジションなんですよ。マナさんから愛を受けた人間体シャルルが、次の通りすがりのヒーローになる。もしそれができるんだったら、助けるためのリソースが、困難な現実を何とかしていくためのリソースが、追加されることになる。マナさんから愛を受け取っていた二階堂くんは、次の通りすがりのヒーローに、なれるんだ。幸福の王子の愛が、ちゃんと伝導していたとしたら。宝石を受け取った脚本家はそれをきっかけに頑張って、次の弱きを助ける者となり、幸福の王子にもちゃんとリプライを返していたとしたら?


 「そうさ、楽しもうぜ、みんな」(二階堂くん)


 後夜祭が、みんなで掴みとる楽しい未来の象徴なんだろうな。状況は逆境。でもまだ、時間はあるんだ。本当にリンクを伝う相互伝導によるリソースの追加と調整が可能なら、バッドエンド未来を回避して、楽しい未来を選び取ることも、できるのではないか、という。

 そこから、ツバメ(六花)、副会長、ソフト部、サッカー部、野球部、と文字通り破綻を修復し「楽しい未来」を構築していくための「リソースの追加」が描かれていき、パンフレット配布の代わりに図面を貼る、迷子対策に名札をつくる、体育館のトイレも解放、と、みなが、かつて幸福の王子から助けられる立場だった側の人々が、近代的な文脈上の「強者」になるためではなく、「リソースの追加と調整」に向かって、智慧を絞っていく、知的資源を投入していく様が、たいへん感動的でありました。これが、2013年型の、戦いだ。強い敵を、より強くなって打倒して収奪競争をすればいいという訳じゃ、ないんだ。

 そして、そんな幸福の王子相田マナから愛を受け取った者の一人として、象徴的代表者として亜久里も描かれている(おそらく中心的には、夏祭り回第28話が重要)のが綺麗な今話。亜久里も当然、今日はマナのために日常パートでもバトルパートでも頑張った。幸福の王子から愛を分け与えられたとして、リプライを返すんだ、と。幸福の王子も、みんなも助かる道はあるんだ、と。

 今話で描かれたのはある種の理想。でもそんな未来のためになら戦える、と、ドキドキ!的にはリンクの象徴であり、プリキュアシリーズ的には原点である、「手繋ぎ」がマナと亜久里で描かれた所で幕。すさまじい一話でありました。感動しましたよ。

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→前回:ドキドキ!プリキュア第31話「大貝町大ピンチ!誕生!ラブリーパッド」感想へ
→次回:プリキュア雑記(2013年9月16日"二階堂くんのポジション")
→次回:ドキドキ!プリキュア第33話「ありすパパ登場!四葉家おとまり会!」の感想へ
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