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例えばみらいさんは「未来」に関して予知に近いような直感を見せるシーンが描かれますし(第1話、他など)、自分の頭の中にある「未来」のイメージを具現化するのが得意だったり(第6話、第8話など)というのが描かれています。
一方でリコさんは、みらいさんの過去(思い出)の象徴であるモフルンを守ったり(第1話)、座学で「過去」の集積を学ぶのが得意というのが描かれています。
エッセンスとなっているのは、リコさんとリズ姉さんの関係にまつわるエピソードで、重要な話数としては第6話「特訓!魔法の杖!先生はリコのお姉ちゃん!?」(感想)と、同山下憲一さんが脚本を担当して第6話とセットになってると思われる第13話「たのしいBBQ!幸せたくさんみ〜つけた!」(感想)の二つです。
大まかには、物語冒頭ではリコさんは「過去」をこじらせてしまっているのですね。「過去」に大好きだったお姉さんのリズと今では疎遠になり、リズ姉さんからの愛情に「現在」では自信が持てないという状態になっている。むしろ、リズ姉さんは自分が辿り着かなくてはならない「立派な魔法使い」、「競争相手」に(リコさんの見方の中では)なってしまっています。
第6話序盤の、リコさんが現在の自分の実力には見合わないのにリズお姉さんと同じ「象」をイメージで作ろうとするのも、リコさんの意識がお姉さんとの「競争意識」に向いてしまってる……というシーンかと思いますし、物語冒頭の「ナシマホウ界」に来た理由が「補習を受けたくなかったから」というのも、それだけだとちょっと幼稚な理由という感じなのですが、リズ姉さんへ「競争意識」を持っている以上、「補習を受けてる至らない自分」というのはリコさんには受け入れられない、そんな至らない自分では自身への無価値感を感じてしまうという切羽詰まった心情があったのだと解釈すると、今だとある程度分かります。
そんなリコさんがみらいさんに出会って、ちょっとずつ変わっていく……というのが第1クールの主なストーリーラインかと思いますが、リコさんの何が変わっていったのかといったらまずは「『過去』の捉え方」だと思うのですね。
特にリンクルストーンを受け取る回に顕著ですが、「『過去』を受け取り直す」というエピソードが第1クールは多いです。第3話「魔法商店街でショッピング!目覚めるルビーの力!」(感想)の魔法商店街での思い出(過去)を大事なものだったと捉えなおして(というか大事なものだったと気づいて)、それが踏みにじられそうになった時に怒るリコさん。第7話「人魚の里の魔法!よみがえるサファイアの想い!」(感想)の人魚の里の「過去」の伝承を改めて受け取るリコさん。いずれも、「過去」を捉えなおして「現在」の見方が変わるお話です。第7話も、「過去」をもう一度受け取り直したら、「人魚は空を飛ばない」という「現在」の固定観念・ものの見方が変わったというお話だったのだと「見方が変わった」というキーワードが出てきた第1クールが終わった今なら分かります。
そしていずれも、リコさんが「過去」を受け取り直せたきっかけには、みらいさんの存在があります。「手を繋ぐ」が作品のテーマだと事前広報されてる本作ですが、主にはみらいさんを通して、リコさんは「繋がり」、人と人との関係性のようなものを信じられるようになっていきます。
その流れで、第6話でやはりみらいさんがきっかけで、実はリズお姉さんは今でもリコさんを愛しているということを受け取り直すことができたリコさんは、「競争意識」に歪められてしまっていた「過去」を赦し、リズお姉さんへの「見方」を変えることができるようになります。結果第6話ラストでは、「競争意識」を手放し、リズお姉さんとの「繋がり」の証であるペンダントをリコさんは作るというラストです。
この、「過去」を赦して、受け取り直すというプロセスを得てから、徐々にリコさんの意識が「未来」に向かい始める萌芽が描かれ始めます。第8話「魔法のほうきでGO!ペガサス親子を救え!」(感想)の、
「私を信じて」(みらい)
「信じてるから」(リコ)
のやりとりは、そのままのリコさんがみらいさん個人を信じたという意味にも捉えられますし、同時に言葉の象徴表現として、リコさんが「『未来』を信じる」ことができるようになったシーンでもあるかと思います。
こうして、徐々に「未来」に目を向け始めたリコさんというストーリーが収斂するのが、第1クールのクライマックスであろう第9話「さよなら魔法界!?みらいとリコの最終テスト!」(感想)のラストで、リコさんはみらいさんを信じて、未知なる世界・リコさん視点からすると「過去」の集積がない世界(=ナシマホウ界)へと飛び込んでいきます。リコさんがみらいさんともう一度手を繋ぐシーンが、ここでもリコさんが「未来(=過去の延長線上とは違うかもしれない未知の可能性の世界)」と手を取れたという意味合いに象徴的になっているのかなと感じるシーンです。
ちなみに、この歪められていた「過去」を赦し、「過去」からの愛情を「現在で」受け取り直す……というストーリーラインは、『映画プリキュアオールスターズ みんなで歌う♪奇跡の魔法!』(感想)でも、魔法使いさんの「過去」の愛情をソルシエールさんが「現在」で受け取り直すというプロセスで描かれていたりします。例年春のオールスターズ映画とTVシリーズ本編はテーマ的に重なる部分があるのがプリキュアシリーズなので、この点からも、この「過去」を受け取り直して、硬直していた「現在」の固定観念のようなものをほぐし、やがて「現在」から「未来」へ開け始めるというプロセスが、今年のシリーズで描きたいもののキーなのかなというのが伺えると思います。
1クールの締めの第12話「満天の星空とみらいの思い出」(感想)のキー台詞はまさに「見方が変わったのね」です。悲しい「過去」の中にも、「満天の星空」の美しさを見つけられるという話ですし、第13話「たのしいBBQ!幸せたくさんみ〜つけた!」(感想)は第6話とセットの回で、リズ姉さんとの関係を受け取り直した結果、リコさんがその存在自体を祝福されていたことに気づく回です。ここでも、一つの「見方が変わった」ゆえの幸せの発見というプロセスが描かれていたと思います。
リアル世相などを鑑みても、厳しい現実の中で、いきなり未来に前向きになる、未来を信じるというのは難しい昨今なのかもしれません。
それでも、何らかの要因(劇中では一つ「過剰な競争意識」があげられていると感じます)で歪められた「過去」を人との繋がり(リコさんにとってのみらいさんのような)を頼りに赦し、「過去」の意味合いを受け取り直すことができたなら、その時は自由に「現在」を生きられるようになる。
観念として受け取っていた犠牲者意識や自己無価値感を手放して、「現在」の自分の存在に、無償の祝福のようなものを感じられるようになる。
そうなってくることによってようやく、ものの見方が自由になるゆえに、「未来」に関しても、美しさ、幸せ、そういうものが見つけられると信じられるようになるものなのかもしれません。
そういう意味で、「未来」は暗いと嘆きがちな昨今。我々は「現在」から「未来」にかけていかにして第13話の四葉のクローバーに象徴されるような「幸せ」のようなものを見つけられたり、リコさんが両親や星の杖から受け取っていたような自分という存在への無償の祝福のようなものに気付けたりするのか。処方箋のようなものが描かれているアニメーション作品だとも思うのでした。
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