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 相羽です。

 『スター☆トゥインクルプリキュア(公式サイト@東映公式サイト@朝日放送)』第1話「キラやば〜☆宇宙に輝くキュアスター誕生!」の感想です。

 ネタバレ注意です。
 ◇◇◇

 お気づきでしょうか。

 今回の第一話内。同じ「宇宙」という言葉でも、


 Aパートのひかるさんが迷い込んだ宇宙(途中で目が覚めた方)と、

 Bパートのバトル時に舞台になった宇宙と、


 が、表現として描き分けられていることに。

 Aパートの宇宙の方は、飴、星、ドーナツ、水(海?)、そして澱み(中心にはハートが)……などなどと、「宇宙」とはいっても「想像力」が貫入してる感じの表現になっています。で、後で説明しますが、こちらが「マルチヴァース宇宙観」で描かれている宇宙かと思われます。飴宇宙には飴宇宙の、ドーナツ宇宙にはドーナツ宇宙の、それぞれの宇宙にそれぞれの法則があるかのようです。

 一方で、Bパートのバトル時に舞台になった宇宙の方は、そういうあからさまな「想像力」の産物は貫入しておらず、星、宇宙空間、ロケット、まあ普通の「物理」宇宙です。こちらはおそらく「インフレーション宇宙観」で描かれている宇宙です。

 「マルチヴァース宇宙観」と「インフレーション宇宙観」とは、何が違うのか?

 めっちゃざっくりとは、


 マルチヴァース宇宙(多元宇宙)観=宇宙は一つじゃない

 インフレーション宇宙観=一つの宇宙が膨張(インフレーション)し続けている


 です。

 マルチヴァース宇宙観は去年(2018年)亡くなった車椅子の天才物理学者スティーブン・ホーキング博士が最後の論文とかで書いていた話で、これに、多元宇宙×我々の内面世界の(想像力の)宇宙……という宇宙観を打ち出しているのが本作かと思われます。

 というか、僕去年そういう題材の小説書いたんですよ。その中の一節が一番「マルチヴァース宇宙観」の話としては分かりやすいんで、ここに載せておきます。いきなり自分で書いた小説の話でゴメンね! でも、ここが本当分かりやすいと思うんですヨ。↓


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 オレンジジュースに口をつけてから、言史くんがこんなことを話しはじめた。

「ユーレ。最近の宇宙物理学だと、宇宙の最初の最初には『特異点(とくいてん)』があったっていう考えが、けっこう古いって話。もうちょっと聞かせてくれよ」

 ユーレさんはテーブルと車椅子の位置を自分で細かく調整してから、

「フフ。言史は、『全ての存在の根源には、何があるのだろう?』って考えちゃうタイプの人間だよね。そういうのは、好きさ。
 うん。アインシュタインの『一般相対性理論』が正しいとまずは仮定しよう。すると、あらゆる存在の最初。僕たちの『宇宙のはじまり』には、『特異点』が存在するっていうのが、これまでの宇宙の捉え方だったんだ。
 『特異点』っていうのは、重力、密度などが無限大になってしまう、古典物理学では捉えきれない『何か』って感じでね」

 と、言史くんに返した。

 ユーレさんは、体のこともあって小学校は休みがちだったのだけれど、自分でインターネットを使って海外の英語論文なんかをどんどん読む人で、当時、既に普通の子どもが知らないような難しい知識をたくさん知ってる人だったわ。

「でも最近は新しい見解が出てきて、あらゆる存在の根源、『宇宙のはじまり』は特定の『点』というよりも『ゆらぎ』――『無境界(むきょうかい)』だったのではないかみたいな話なんだ。空間、時間、あるいは『存在』という概念すらも曖昧になってしまうような、『場』というかね。これは『点』というよりは、『ゆらぎ』、つまり粒子のように振る舞いつつ、同時に波のようにも振る舞ったりしている『無境界』で、なかなかに量子論(りょうしろん)的な概念だよ」

 その頃のわたしは、藤宮(ふじみや)邸(てい)での本格的な勉強を開始する前だったから、二人の話の内容はよく分からなかった。

 なんか、難しい話してるな〜くらいに思っていた。

 ユーレさんは、そんな様子のわたしにも気をつかって。

「ごめんごめん。乃喜久(のぎく)ちゃんは、あんまりこういう話に興味ないかな? その、宇宙はどういう風に始まったのか、みたいな話」

 ユーレさんは少し視線を落とした。

 そんなユーレさんが寂さびしそうだったからというわけでもないのだけれど、わたしは率直なところとして、

「興味がなくはないけど、ちょっと想像できないかな。『宇宙のはじまり』って言われも? うーん、分からないっていう」

 って応えたわ。

「だよねぇ。日頃からこういうことを考えてる僕の方がおかしいのかな? って気がするしね。僕、子どもの頃に急に『時間についてわかった!』って言って親に語り出して、ビックリされたことあるし」

 ユーレさんは涼やかだったけれど、やっぱりちょっとがっかりしてる感じ。きっと、話が分かってくれる人がほしいんだろうなぁ。

「乃喜久はともかく、俺は興味あるぜ。続けてくれ」

 言史くんが助け舟を出した。実際、言史くんもこういう「難しい話」が好きな小学生だった。

「ありがとう言史。えーと、『宇宙のはじまり』は『無境界』だったってところからか。でね。うん、主には僕のヒーロー――車椅子の天才宇宙物理学者・スティーブン・ホーキング博士の最近の見解なんだけどね。僕は加えて、ここに日本に伝わっている仏教方面の考え方の、『存在と非存在は同時に成立し得る』といった思考様式も関わってくるんじゃないかという仮説も持っているんだ。『宇宙のはじまり』がそもそも量子論的な『無境界』だとすると、これまでの、最初の『点』から始まってビッグバン以降僕らの一つの宇宙が膨張インフレーションし続けてるという宇宙観にもまた、懐疑かいぎ的な視点が向けられることになる。最初がそもそも『点』ではなく曖昧な『ゆらぎ』なのだから、インフレーション自体に様々な可能性が内包されていることになる。どういうことか。どうも、宇宙はインフレーションの過程で、存在と非存在を連絡させ合いながら、別の可能性としてのインフレーションを多数発生させてるんじゃないか、みたいな話なんだ。『泡』みたいにね」
「ざっくり言うと、宇宙は一つじゃない・・・・・・ってことか?」
「そう。多元宇宙(マルチヴァース)だね。無数の『泡』、あるいは『風船』のようなとも言えるかもしれない。あらゆる可能性を含むあまたの宇宙領域が、僕らのこの宇宙と関係し合うように、そこに『あり』、また同時に『ない』のかもしれない。ある宇宙は、僕らの宇宙とは物理定数も、現実の意味も、存在の定義すら違うかもしれない」

 この日、ユーレさんはめずらしく多弁(たべん)だった。もちろんお酒なんか飲んでなくて、ジュースを飲んでただけなんだけどね。

 自分が好きなジャンルの難しい話を、心のおもむくままに話すのって、お酒に酔うのに似た快感があるのかしら?

「問題は、今のところ実証、証明する手段が追いついていない、あくまでまだ理論上の話だっていうことだけどね。でも、歴史に目をむければ、その通りな流れのような気がしてるんだ。人類の歴史って、『認識する範囲』を広げていく歴史でもあったわけじゃない? 他人と出会って、あ、人間って一人じゃないんだ! って知る。違う国のことを知って、あ、自分の国の価値観が全てじゃないんだ! って知る。違う惑星のことを知って、あ、地球以外にも宇宙に星はあるんだ! って知る。今では、銀河、そして銀河団が一つではないことも僕らは知ってるわけで、流れ的に、宇宙は一つだけじゃないことを知ったとしても、まあ、その通りなんじゃないかな? なんて僕なんかは思うんだけどね」

 ユーレさんは、この日の『宇宙のはじまり』に関する話をそう締めくくった。

 相羽裕司『少女輪廻協奏曲 ノギクとヴェドラナの愛』より

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 これが、ざっくりとは「マルチヴァース宇宙観」です。

 で、本作、プリキュアは「マルチヴァース宇宙観」側なんですね。

 ここでは、プリキュアシリーズの共通の主題である「多様性」を、「マルチヴァース宇宙観(たくさんの宇宙がある)」と重ねていると解釈するのが自然かと思います。

 一方で、敵さん側は、従来の「インフレーション宇宙観」で襲ってくる。おそらく、一つの宇宙(敵さんの国?)を膨張させて(インフレーションさせて)宇宙を覆ってやるぞ! という力学で襲ってきてるのでしょう。

 カッパードさんの「プリミティブな惑星に来てしまったようだ」という台詞には、膨張の中心がエラくて、それよりも劣る周辺の星(地球含む)を支配、膨張に飲みこんでいく……という世界観が伺えます。フワを「物」扱いするのも、哲学の世界では「物」に「制作」を加えることが帝国主義的な世界観と相性がイイからです。(それに対照されるのは「生成」。ハイデガーとかの話とかになるので、この辺りはおいおい。)

 今話のクライマックス。そんな、「インフレーション宇宙観」の膨張し続ける脅威の前にフワが、できかけたひかるとフワとの関係性という大事な「何か」が飲みこまれそうになる時、「人間は宇宙では息出来なくて死ぬ」という「インフレーション宇宙観」の常識(法則)を、プリキュアという「マルチヴァース宇宙観」が貫入してきて描き換えます。プリキュアへの変身シーンで描かれる宇宙の描写は、Aパートと同じ、「想像力」も込みの「マルチヴァース宇宙観」側の演出になってます。

 つまり、これまでのプリキュアシリーズがざっくりとは過度のグローバリズムに対するローカリズムの反逆だったのに対して、


参考:鷲尾天氏のエッセンス〜均質化に向かう世界で「見え方が変わる」を守るということ―魔法つかいプリキュア!第15話「ハチャメチャ大混乱!はーちゃん七変化!」の感想(ネタバレ注意)


 今回はそれと意味合いを重ねながら、「インフレーション宇宙観」的な単純化に抵抗する、「マルチヴァース宇宙観」的なプリキュア……という構図になってるということです。

 「宇宙での戦い方」は圧倒的に上というカッパードさんが押しかけたところで、え? というか、「宇宙は一つじゃない」んですけど? とでもいうように、「想像力」も込みのプリキュアの力、「マルチヴァース宇宙観」の力が発動して反撃するところは、遅い遅い、何いつまでも「インフレーション宇宙観」で膨張競争(「競争原理」と相性がよい)とかやってるの? もう、世界は「マルチヴァース宇宙観」の探求に入ってるんだヨ! 格差、貧困、超少子高齢化などなど、混迷する最近の世の中だけど、プリキュアシリーズ16年目、「想像力」で全部ブっ壊していくヨ! 歌うヨ! 踊るヨ! 絵を描くヨ! いくヨ、次の大不思議世界! みたいな感じでたいへん熱かったです。

 そんな感じで、「マルチヴァース宇宙観」で、たくさんの宇宙があり、人それぞれの心に多様な宇宙があるのだとしたら、疎通はどうするの? というところで、Aパートでドーナツ(食)という「共有体験」で分かり合えるかもという(ひかるとフワとの)パートをワンクッション入れつつ(参照:『スイートプリキュア♪』の感想)、

 ラストで、星奈ひかるさんとララさんが言葉が通じたところで引き。


「「言葉が分かる!?」」


 のところはかなり涙腺にきましたよ。

 違う宇宙と違う宇宙が「言葉」で繋がる瞬間を描いて終劇。

 「競争原理」と相性がいい「インフレーション宇宙観」の牢獄に囚われているのももう古いかもしれないけれど、「マルチヴァース宇宙観」で、沢山の宇宙が存在できたとしても分断されて孤立した島宇宙だけが漂っているのだとしたらそれも孤独だ。宇宙人のララにひかるが「ぐいぐいくる」、ララとプルンスが飛び立とうとした時ひかるが宇宙船に乗り込む、フワが宇宙に放り出された時ひかるも飛び出す、三回描かれていた、他者の希求が、「マルチヴァース宇宙観(多元宇宙観)」と世界が広大になればなるほど、美しい。

 そんな感じで、このアニメは100点中●点とか、「競争原理」(土台は「インフレーション宇宙観」)の中の評価にまだまだ囚われがちな現行世界で、いや、百とか千っていうか、那由多(なゆた)くらいいっとく? みたいな、いくぜ大不思議世界! 感がある、素晴らしい第一話でした。

 とても心を打たれたので、今年は一年じっくり追っていこうと思うんだぞい。

→参考図書

ホーキング、最後に語る:多宇宙をめぐる博士のメッセージ
スティーヴン・W・ ホーキング
早川書房
2018-07-19


→ソレイユさん好き



→キュアセレーネさん



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スター☆トゥインクルプリキュア 第01話「キラやば〜☆宇宙に輝くキュアスター誕生」/『真・南海大決戦』
スター☆トゥインクルプリキュア 第1話 キラやば〜☆宇宙に輝くキュアスター誕生!/四十路男の失敗日記
スタートウィンクルプリキュア第1話感想&考察/あおいろ部屋

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