相羽です。

 『ひろがるスカイ!プリキュア(公式サイト@東映公式サイト@朝日放送)』第5話「手と手をつないで!私たちの新しい技!」の感想です。

 ネタバレ注意です。
 ◇◇◇

●『ひろがるスカイ!プリキュア』の「世界」のルーツになる「神話」が語られはじめる

 ヨヨさんによって、「スカイランド」の伝説が語られます。

 伝説というか、世界の成り立ちに関わる、やはりほぼほぼ「神話」の類のお話でしょう。

 嵐の晩に、「闇の世界」の魔物から「スカイランド」は侵攻を受けた。戦争があった。

 (当時)の姫が祈って現れたのが「ヒーロー」である「プリキュア」で、世界は救われた。

 ああ、これは……。

 「神話」的には、ほぼ(当時の)「スカイランド」の人々は世界が救われた後、プリキュアを殺してますね。

 殺されたプリキュアの死体から何らかの恵がもたらされ、それが「スカイランド」の礎になっている、みたいな。

 児童向け番組なので明確に殺したとは描かないかもですが、トータルで象徴的にはそういう意味合いの立ち位置になりそう。「神話」時代のプリキュアに関しては。


●「神話」における超常的な存在の「死」から恵みがもたらされるというモチーフ

 こういうモチーフのお話は、世界中の「神話」にみられます。

 『FGO』とか(人気のゲームだから例にあげますが)でメソポタミア神話に馴染み深い方なら、ティアマト神とかも殺されて引き裂かれて、それが大地になった、みたいな「神話」ですよね。

 ティアマト神は神ですが、神様までいかない何らかの超常的な存在、まさに「英雄(ヒーロー)」みたいな存在が幻視的に現れて、戦って、民は最後にその「英雄」を殺して、そこから(その世界を成立させる)恵みが生まれてくる……みたいな「神話」は世界各地にあったりします。

 その共同体が「狩猟」から「農耕」に社会形態を移す時に現れる「神話」なんじゃないかなんて言われてるのですが。

 北アメリカのアルゴンキン族の物語では、ざっくりとは、幻視を体験した少年が謎の超常的な感じの若者とレスリングをするのですが、何回か戦った後に、最後に少年はその若者を殺します(若者の方からそうするように言うのですが)。で、若者の死骸を埋めたところから、トウモロコシが生えてくる。

 トウモロコシ=「農耕」=食料(エネルギー)=世界の礎

 が生成するにあたっての「神話」です。

 では、『ひろがるスカイ!プリキュア』的には、「スカイランド」が成立する礎には、何があったのか?

 「ヒーロー」、「神話」時代のプリキュアの「死」から上記のトウモロコシに相当するような何らかのエネルギーを手に入れて成立しているのではないのか? とか。

 そもそも、「スカイランド」「ソラシド市」「闇の世界」の成立に、ルーツに、何があったのか?


●「ヒーロー」の自己犠牲ルートとソラ・ハレワタールという「禁忌」を犯した主人公

 以上は現時点での推察ですが、「神話」時代のプリキュアが何らかの犠牲的な立ち位置に辿り着いたとすると、それを時代を超えてなぞるように、「ヒーロー」を志す「プリキュア」であるソラさんに、現時点では自己犠牲的なフレーバーがついて回っていることと付合します。

 第1話では自分よりもエルちゃんを優先するようにという趣旨の言動をしており、第3話ラストでは親元に帰れない状態でも自分のことはイイとするようなことを言っており、ついに今話では、彼女の「ヒーロー」の「マクシム(自分との約束)」には「独りぼっちを恐れない、それがヒーロー」というものまで入ってるのが明らかになってしまいます。

 では、いわゆる、「自己犠牲」的だった「ヒーロー」が、自分も含めた「世界」を守ろうという段階にまで到達するという、ゼロ年代に流行した「ヒーロー譚」の続きなのか? というと、『ひろがるスカイ!プリキュア』の物語には、僕は既にもうちょっと奥行きを感じています。

 というのは、ソラ・ハレワタールさんという少女は、「ヒーロー」に憧れる次の世代の「ヒーロー」という文脈にとどまらず、子どもの頃に「行ってはいけないと言われていた森」に入ってしまった、「禁忌(タブー)を犯した者」という「神話」的な動機の中心にいる主人公でもあるからです。


●「禁忌(タブー)」を犯した主人公という存在の「神話」的な意味

 「やってはいけないと言われていたことをやってしまう」、人間が「禁忌(タブー)」を犯す……というのは、世界中の「神話」の定番の定番です。

 このストーリーには、ざっくりとは、超常的な世界から「禁忌(タブー)」を犯すというイニシエーション(儀式)をとおして、人間は時間と空間が存在するこの現象世界にやってくる……というシンボルが含まれているという説があります。

 日本人にわりと馴染み深いのは、「エデンの園」のお話ですか。

 時間も空間も存在しない「楽園」的な世界であった「エデンの園」にいたアダムとイブは、「やってはいけないと言われていたこと」、禁断の果実を食べるということをやって、地上、現象世界へとやってくるという流れなわけです。

 このような聖書の話とかまではじめてしまうとグッと抽象度が上がってしまいますが、時間も空間も存在しない「楽園」的な場所……は、プリキュアのストーリーを読む用途にあたっては母親の庇護下にあった「子どもの頃」の比喩かな、くらいの解釈でもイイような気がします。

 母に全て守られていた「楽園」的な時間・空間、そこから、ソラさんは「行ってはいけないと言われていた森」に行くという「禁忌(タブー)」を犯すというイニシエーション(儀式)を行って、現象世界へと踏み出したわけです。大人への道を歩き始めたわけです。

 彼女にとって現象世界へ踏み出すということは、「ヒーロー」の道を求道すること、というかたちをとったわけですが。

 その道(ルート)の果てには、「神話」の時代のプリキュアのように(まだ推定の段階ですが)、「世界に恵(リソース)をもたらすために犠牲になる」結末が予見されてしまっている。

 しかし。

 その「しょせん人は独りでこの世界にやってきて、独りで死んでいくんだ。それが大人になるということなんだ。それが人生なんだ」という世界観に変更を、ルート分岐をもたらす存在が現れます。

 そう、ヨヨさん曰く「運命」。

 ソラさんにとっての虹ヶ丘ましろさんの存在です。


●「天球」の「運命」、欠けた半身同士のソラとましろ

 ここで、「禁忌(タブー)」を犯し、「しょせん人は独りでこの世界にやってきて、独りで死んでいくんだ。それが大人になるということなんだ。それが人生なんだ」ルートを進むかにみえたソラさんに、もう一層奥の、我々視聴者にとってもまだ謎の「天球」という世界のレイヤーが立ち現れてきます。

 スカイミラージュは「天球」っぽい。今作のプリキュアへの変身バンクの謎の「場」も「天球」っぽい。第2話のヨヨさんの初登場シーンの直前に意味深に「天球」が映っている……。

 で、「天球」が何なのかというと、物語上でどこまで具体的に描くのかはともかく、この現実世界、現象世界よりは高次の、何らかの超常的、それこそ「神話」的世界何だろうなというのは推定されます。まあ、我々に馴染みのある言葉でざっくりと言ってしまえば「神様の世界」みたいなレイヤーです。

 で、あんまり序盤から、というか日曜の午前中から飛ばしたことを言うのもアレなんですが、そのような超常的な「たましい」の世界みたいなレイヤーでは、ソラとましろは二人で一人で、欠けた半身同士だったんではないかと。

 今話でソラさんが、初めてともだちができて、ましろさんと共にあることが「怖い」というのですが。「神話」的には「禁忌(タブー)」を犯して「生きる」ためにわざわざこの現象世界にやってきたのに、ましろとの関係を深めていく、元の二人で一つだった「天球」の世界へ戻る方向に向かっていく、というのはやはり「怖い」んですね。そのような原初の世界へと戻っていくことで生じる恐怖というのも、わりと「神話」的な題材です。

 だから、「プリキュアに変身する」という「儀式(イニシエーション)」を挟むんですね。

 ふだんは、現象世界でソラとましろという違う存在として立ち現れている。そのまま独りで「独りぼっちを恐れない、それがヒーロー」の方向に突っ走ってしまうと「自己犠牲バッドエンド」に辿り着いてしまうし、かといってこの現実世界、現象世界ではソラとましろは別な存在です。

 ですが、日常のソラとましろという別々の存在として日々を重ねていくレイヤーから、儀式(イニシエーション)、今作ではもう、モロに「天球」で踊るという変身シーンですよね、それを通して非日常へとステージが一つ近づいた時、「人間」の領域と「神様」の領域の境界領域のような、「二人で一つ」のプリキュアという境界存在のレイヤーが立ち現れる。キュアスカイとキュアプリズムの耳には、対になる「天球」のピアスが(「天球」のレイヤーではお互いに半身だったというシンボル?)……という、もう、めちゃめちゃカッコいい二人なのですね。


●『ひろがるスカイ!プリキュア』は「英雄」バッドエンドを「天球」トゥルーエンドに書き換える物語か

 総じて、『ドキドキ!プリキュア(感想)』が、予見される相田マナさんの『幸福の王子』バッドエンドを、みんなが立ち上がってくれる『幸福の王子』(の溶鉱炉行き回避)トゥルーエンドへと書き換える物語であったように、

 本作『ひろがるスカイ!プリキュア』は、「神話」的な総体からは予見される、「英雄」が「禁忌(タブー)」を犯して最終的には死んで世界の礎を築くルートを、ソラの運命の半身であるましろをはじめ、何らかの「天球」のレイヤーを用いることでトゥルールートへと書き換えていく物語なのかなと思い始めています。

 上では「エデンの園」とか北アメリカの伝説の話とか出しましたが、あるいはギリシャ神話のプロメテウスとかさ。「禁忌(タブー)」を犯す(プロメテウスの場合は「火」の取得ね)「英雄」がいて、世界の礎は築かれたが……みたいな話ですよね。

 既に、スカイランドのエネルギー源であるスカイジュエルは、オープニング映像で暗いトンネル(「闇の世界」と関係?)の場所にも描かれており、世界の礎に何らかのエネルギー関係の話があるのはみてとれていたりします。

 そういう「世界」の何かに関して、ソラさんは「英雄(ヒーロー)」として「独り」でどこかに行けるの? という主題に対して、ようやく今話の具体的な話になりますが、今話はましろが手を差し伸べたお話。

 思い出してほしい。たぶん、欠けた半身がこの世界にいることを。

 今回出現したスカイトーンまで、スカイとプリズムが半分ずつ合わさったかたちになっていると、シンボルとして完璧な形で、信号の演出(初代『ふたりプリキュア』第8話)、ふたりの関係の名称こそが「プリキュア」、プリキュアマーブルスクリューと同じカタチの手繋ぎの新技が二人合体技……と「初代」のオマージュまで十分に兼ねて上記の話を十分に表現しているという、素晴らしい1話であったのでした。

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 絵で30ブックマークって、初めてかもしれません。ありがとうございます!


がんばるアナタの居場所になりたい/pixiv


 ちょうどタイミングを感じていたこともあり、pixiv関係の活動を活発化するターンです。

 本日、3月5日(日)22時30分〜23時10分。pixiv Sketchさんでのお絵かきライブ配信の実験を行います。

 『ひろがるスカイ!プリキュア』と神話の話をしながらお絵描きする配信の予定ですが、なにぶん初めての試みなので試行錯誤しながらになるのはご容赦ください。


・視聴にはpixivのアカウントが必要となります。
・『ひろがるスカイ!プリキュア』の話は放映最新話(第5話)までのネタバレを含みます。
・配信のアーカイブはありません。



 マイクが機能するのか、コメント機能は使えるのか、など、とりあえず基本的なことを確認する実験配信の意味合いが大きいので、ボランティアだと思って参加して頂けたらたいへんにありがたいです。

 配信URLは時間になったらTwitterに投稿しますので、試聴のタイミングはTwitterの方をチェックしておいて頂けたらと思います。文章だけじゃなく、話してる相羽さんに興味があるゾという方もお気軽にどうぞ。本日夜にお会いしましょう!

→『ひろがるスカイ!プリキュア』主題歌シングル



→キュアフレンズぬいぐるみ



→前回:『ひろがるスカイ!プリキュア』第4話の感想〜聖あげはとソラ・ハレワタールの幼少期の理不尽に対して、虹ヶ丘ましろが現在の鍵として立ち現れてくるへ
→次回:『ひろがるスカイ!プリキュア』第6話の感想〜トリスタンとイゾルデのように、ソラとましろがアムールのカタチの愛を社会秩序との間でどう扱っていくのか的なお話
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