『ひろがるスカイ!プリキュア(公式サイト@東映/公式サイト@朝日放送)』第6話「伝えて!ソラの本当の気持ち」の感想です。
ネタバレ注意です。
●『ひろがるスカイ!プリキュア』における「アムール(愛)」と「社会秩序」の相克のお話
今回のお話は、ソラとましろの「愛(アムール)」と「社会秩序」が対立してしまうかもしれない、みたいなお話だと思うのですね。
その上で、「愛(アムール)」と「社会秩序」が調和した状態でも生きていける、未だ訪れていない理想社会のようなものを物語り始める、最初の「動き」や「予感」が感じられるお話でもあります。
今作のソラとましろの「ふたり」を押していくコンセプト。
もちろん20th作品ということもあり、初代『ふたりはプリキュア』へのオマージュもあると思いますが、前回の感想で書いたとおり、「神話」的にはソラとましろは「天球」のような現実世界よりも超常のレイヤーの世界では、二人で一人の半身同士だったのではないか? みたいな解釈が、かなり面白いんじゃないかと思っております。
この場合、もともと超常のレイヤーの世界で半身同士だったソラとましろは、現実のこの世界でも、それぞれの本質的な部分でお互いを求めるようになります。今話の、離れている間お互いがお互いのことをずっと考えていた……という箇所など、そんな感じ。
そのこの世界での自分の本質、自分の半身を求める強い気持ちはこのブログの感想でよく引き合いに出してる神話学者のキャンベルの話などを念頭に置くと、「アモール」とか呼ばれる領域のものなのですが、プリキュアシリーズの感想ブログ的には、『HUGっと!プリキュア』になにしろキュアアムールがいますので、ここではほぼ同じで使ってよいであろう「アムール(愛)」という言葉を使っていってみます。
この、自分の内側から、魂から湧き出てくる本当の気持ち、「アムール(愛)」、貫いちゃいなさいヨ! それで万事オーケー! ……となればイイんですが、いかんせん「アムール(愛)」は「社会秩序」と対立してしまうことがだいぶあるんですね。
今話だとたとえば、「ソラシド市」というか現実世界の学校には、異世界人、というか部外者は入れない……という「社会秩序」のルールの壁が、ソラとましろの二十四時間いっしょにいたい! みたいな「アムール(愛)」の障害として立ち現れてくる……という構図になっています。
これはもう、めちゃめちゃ「神話」的ですよ。
せっかく、「プリキュアと神話の話」をするYouTubeチャンネルを開設したりしたので(後述)、次節でざっくりとだけ、この「アムール(愛)」と「社会秩序」が相克する……みたいな話の「神話」的前提みたいなことを話させて頂きますね。
●ソラとましろは「神話」的には『アーサー王伝説』のトリスタンとイゾルデみたいなもの
この「アムール(愛)」と「社会秩序」の対立のお話、たとえば『アーサー王伝説』のトリスタンとイゾルデの愛の話がこの題材なので、かなり古くから人間存在の普遍的な部分に触れる物語として扱われているのが分かるかと思います。
トリスタン、現在の日本だと『FGO』のなんか弦をボロロンとする人として認知されてる度合いが大きいかもですが(僕も『FGO』やってますし、今日本で大ヒットしている「神話」や「歴史」を扱っているスマホゲームということで共通の話題にしやすくたびたび言及しているのですが)、古くからヨーロッパでは人気の物語の中心人物ですね。
ものすごくざっくりとは、まずイゾルデはマーク王と婚約しています。しかし、二人は会ったことがない。こっちは、めっちゃ「社会秩序」が要求している愛って感じなわけです。「天球」のレイヤーの超常的な世界で半身だった片われの存在とこの世界で結ばれたい気持ちとか、知るかと。この世界での「社会秩序」のために、「かくあるべし」のパートナーといっしょになりなさいよと。
そこで、トリスタンがイゾルデの迎え役として派遣されてくる。そして、イゾルデと「アムール(愛)」の領域の恋に落ちる。(実際には、イゾルデの母がイゾルデとマーク王が本当に愛し合えるようにと惚れ薬を調合して、トリスタンとイゾルデが間違って飲む。でも、惚れ薬とか関係なく、もう二人は愛し合っていた……みたいなプロセスなのですが。)
ここで、トリスタンとイゾルデが己の本質からくる愛、己の半身を求めるような愛、「アムール(愛)」の領域を貫いていっしょになろうとすると、めっちゃ「社会秩序」側、マーク王と結婚しなさいよ的なパワーとぶつかってしまう、というのが分かるでしょうか。
当時の「社会秩序」側は宗教的な世界観と関わっていて、破ると地獄に落ちたりしますから、これはもう大変なことなわけです。
惚れ薬を飲んだところで、それに気づいた乳母がトリスタンのところに来て、「あなたはご自分の死をお飲みになったのです」と言います。「社会秩序」に反抗して個人的な「アムール(愛)」に目覚めるとか、それくらいのことですから。
で、色々<中略>しますが、トリスタンはこんなことを言う。
「おまえはこの愛の苦悩をぼくの死と呼ぶかもしれないが、それこそ僕の生命だ。事実が知れた時受ける罰をぼくの死と呼ぶのなら、ぼくはその死を甘受しよう。そして、地獄の炎で永劫に焼かれる罰を僕の死と言うのなら、それも喜んで受けよう」
これくらい、「社会秩序」で敷き詰められている世界で「アムール(愛)」を貫こうっていうのは、大ごとな感じなのですね。
ソラとましろも、こういうタイプの現行世界のレイヤーでは色々と障害がある「お互いに半身を求めるふたり」なのだとすると、これはソラまし大変なことになってきた、状態なのです。
●「アムール(愛)」と「社会秩序」が調和した新たな世界を目指して、ソラまし創世神話(えーっ!!)
では、どうするのか?
今回の第6話だけだと、ソラさんの目覚めた「アムール(愛)」的な気持ちを大事にすることに中心的なフォーカスが当たっている感じで、もう一つの「社会秩序」側の障害の象徴として現れてくる、カバトンさんの「とおせんぼ」のバリケードみたいなの(?)も、もう、勢いで飛び越えていってしまうんですね。
でもここ、ノリ的にはその方向でイイと思いつつ、一種の「社会秩序」無視、「ルール」無視の勢いも感じられてしまって、これでオールオーケーでイイのかな? 感も覚えてしまいます。
『ひろプリ』は20th作品ということで、『初代』をたとえば5歳くらいで観ていた視聴者が20年経って現在25歳の社会人くらいになっている層も意識している説にのっとるなら、そういう新社会人視聴者さんが、「アムール(愛)」に目覚めました! 好きな人と24時間いっしょにいたいです! このハート止められません! 会社辞めます! みたいになるのも、方向性はいいかもしれませんが、ちょっと性急というかストロングスタイルすぎる感じがします。
まさにその点を、ちょくちょく僕が引き合いに出している神話学者のジョーゼフ・キャンベルとビル・モイヤーズの対談形式の書籍である『神話の力』で、モイヤーズがキャンベルに質問しています。
ざっくりとは、モイヤーズはキャンベルに、「トリスタンとイゾルデがアムールを貫くのは尊いとは思いますが、現実問題として、この現実世界でみんながみんなそれをやってしまったら、世界が大変なことになるのでは?」みたいな質問をするのです。
気になりますよね? 「社会秩序」、ぶっ壊せばイイ、無視すればイイってことでもない気がする。ソラさんも、バリケード全部ジャンプするぜ! というのも、ちょっと脳筋すぎる感じもする。
で、モイヤーズの質問に対するキャンベルの答えが、こちらです。
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キャンベル:いや、自分の頭も使わなくては。
ジョーゼフ・キャンベル&ビル・モイヤーズ『神話の力』(早川書房)より
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ですよね〜。
「心」全開! だけでなく、「頭」も使って、知恵と工夫で「アムール(愛)」と「社会秩序」の調和を試みていく。このキャンベルの解答にとても痺れるものを感じるのは僕だけでしょうか。
キャンベルは、
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モイヤーズ:だから、頭と心が争ってはいけない?
キャンベル:そう、決して争ってはいけません。協力すべきです。頭を働かせなければならないし、心はときどきそれに耳を傾けるべきです。
ジョーゼフ・キャンベル&ビル・モイヤーズ『神話の力』(早川書房)より
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とも。
この本、本当にかなりおすすめです。↓
この、「心」を全部解放して突っ走るだけではなく、「心(アムール的なものが湧き上がってくるところ)」と「頭(たとえば社会秩序について考えたりするところ)」が協力関係にある、調和した状態にある、という方向に、最新の2023年の作品である『ひろがるスカイ!プリキュア』は物語後半では向かっていくのではないかと思います。
その、ソラとましろが切り開いていく、「アムール(愛)」と「社会秩序」の調和が可能なような世界こそが、ある種これからの新しい世界で、これつまり「ソラまし創世神話」なんだ(キリッ)みたいなことを、新しく開設したYouTubeチャンネル(後述)では深夜配信のテンションで(え)語っていってみたりしたいと思います。
ソラとましろが、神話的に「創世神話」的だみたいな話は、それこそ日本神話のイザナギとイザナミの国作りの神話を参照にしながら考えてみてるお話とかもあるのですが、さすがに長くなってきたので、そういった話はおいおいYouTubeチャンネルの方での語りに任せたいと思います。
今回のブログ記事での感想はこれにて!
そして!
先週(3月5日:日)は、pixiv Sketchさんでのお絵かきライブ配信の実験を視聴してくださった方々、ありがとうございました。
お絵描きしながらお話もするのはかなり難しいという学びを得ることができました。やってよかったです、実験配信。
で、今週は、昨日(3月12日:日)、今度はYouTube Liveの方で実験配信をさせて頂きました。
お絵描き配信の体裁をとってますが、現在の実力だと絵を描きながら話すのが難しいのが分かったので、基本はお話しメインの配信となっております。
いや〜、YouTube Live配信、難しいです。色々操作しながらも、ノリノリで喋ってるYouTuberの方々は凄いんだな! と実感中です。
ただ、それでもやっぱりこの配信サービスで行こうかなと思えたので、来週からは、毎週日曜日の22:30〜23:10分に、その日の朝放映分の『ひろプリ』の感想をネタバレでお話しつつ、神話の話も絡めていく! というYouTube Live配信を定期的にやっていきたいと思います。
昨日の配信の分は、アーカイブが残ってるので、タイミングが合った時によかったらどうぞです。最初の5分くらいは配信環境の準備とかしてるので飛ばしてイイかもです。
初めての試みということもあり、たいへんにたどたどしい配信となっておりますが、いちおう、上述のトリスタンとイゾルデの話をソラましに絡めた話とかも神話成分多めでやっております。
あと、何気に「エルちゃん」の「L(仮定)」が何なのかの、現時点での僕の考察なんかも最後の方に語っております!
↓
●『ひろがるスカイ!プリキュア』第6話の感想と神話のお話【お話中心お絵描き実験配信】/YouTube Live(アーカイブ)
YouTubeチャンネルも開設しましたので、チャンネル登録もぜひよろしくです。ほぼほぼ徒手空拳で配信の世界に飛び込んでみたカタチですが、まずはチャンネル登録者30人を目指して努力していく所存です!↓
●『プリキュアの感想と神話のお話』/YouTubeチャンネル
来週(3月19日:日)も配信URLは時間になったらTwitterに投稿しますので、試聴のタイミングはTwitterの方をチェックしておいて頂けたらと思います。文章だけじゃなく、話してる相羽さんに興味があるゾという方もお気軽にどうぞ。日曜の夜にお会いしましょう!
・Twitterもやっておりますので、フォローしてやって頂けたら喜びます〜。↓
『ひろがるスカイ!プリキュア』第1話の感想〜大人になったら末法の世になってたが、子供の頃のマクシム(自分との約束)を胸に虚構のヒーローが現実でもう一度立ち上がる - 少女創作ファンブログ―The Girlls Fiction Fan Blog(GFFB) https://t.co/XbNf8vYMQr …ブログ更新です。 #ひろプリ #precure
— 寂しいシロクマ(相羽裕司)/仙台市太白区 (@sabishirokuma) February 5, 2023
→スカイミラージュ
→キュアフレンズぬいぐるみ
→前回:『ひろがるスカイ!プリキュア』第5話の感想〜禁忌を犯して欠けているソラさんの英雄譚にましろさんという天球の文脈の半身が加わり物語のスケールが大きくなってゆくへ
→次回:『ひろがるスカイ!プリキュア』第7話の感想〜外からきたソラが学校という内に入る「境界領域」を扱っているキュアウィングエピソードへの布石っぽいお話へ
→『ひろがるスカイ!プリキュア』感想の目次へ