相羽です。

 『ひろがるスカイ!プリキュア(公式サイト@東映公式サイト@朝日放送)』第8話「飛べない鳥と、ふしぎな少年」の感想です。

 ネタバレ注意です。
 ◇◇◇

●ソラとツバサは「理想への飛翔」という衝動を抱えた心の「同盟者」

 前回のYouTube Live配信(こちら)の後半で、ちょうど「神話」における「鳥」は「理想への飛翔」の象徴だというお話をしたのですが。

 まさに、キュアウィングに変身するであろう少年・夕凪ツバサは「鳥」であり(プニバード族)「理想への飛翔」の衝動を抱えているキャラクターでありました。

 プニバード族は飛べないという「現実」から、飛ぶという「理想」を抱えている少年。

 よかったのは、そのような「理想への飛翔」衝動を抱えているという要素を、ソラさんも抱えている点にも焦点を当てて、ソラとツバサの共通の「願い」の志向性であると描き出していたところです。

 ソラさんも、実際まだまだ未熟で「ヒーロー」にはなれていないという「現実」にいる。

 そこから、「理想のヒーロー」にいつかなりたいという「理想への飛翔」衝動を抱えている。

 ソラとツバサは、「理想への飛翔」という衝動を抱えて人生を邁進してきた、「同盟者」のような関係であるといえるのかもしれません。


●現実には「代償」を差し出さなければ生きられないという「固定観念」の問題がある

 わざわざ「理想」に向かって飛翔しなくていけないということは、裏を返せば「現実」の方には問題があるということになります。

 現時点で特に意識されている「現実」の問題は、現在の世界は、自分自身の「本来性」を生きようと思うと、「代償」を支払わないといけないという「固定観念」の「呪い」のようなものがある点です。

 ちょうど、これも前回のYouTube Live配信(こちら)の前半で、『ひろプリ』のキュアウィング関連のファーストエピソードは、『トロプリ』の第16話・第17話(ローラ変身エピソード)と対応する構造になっているという話をしました。

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(配信中に描いた図です)

 陸に上がるには、歌声を差し出して、自分も足をはやさなければならなかった、「代償」を払わなければならなかったというアンデルセンの古典『人魚姫』を意識させながら。

 「代償」は払わなくても、人魚であり人間でありプリキュアでもあるという、虹色の「本来性」は可能であるということを描いた『トロピカル〜ジュ!プリキュア』のローラの物語を受けて。


参考:『トロピカル〜ジュ!プリキュア』第17話の感想〜ありのままの自分でいられる「居場所」をくれた愛する人を守るという2021年の『人魚姫』(ネタバレ注意)


 今回の『ひろプリ』のツバサ(キュアウィング)のエピソードでは、プニバード族は「大昔」に人間の姿になれるようになる代わりに、「代償」として空を飛ぶ力を失ったということが語られています。

 つまり、「代償」の世界観に束縛された「現実」の中でツバサ少年は生きていて、そこから、ローラのように、「代償」を払わなくても、鳥であり人間であり、ついでに男の子でもあり、そしてプリキュアでもある! という「本来性」を実現できるのかどうか。そっちの「理想」に向かって飛翔していけるのかどうかが、彼のドラマとなっているわけです。


●厳しい「固定観念」がある現実の中で「理想」を追うのは一人ではつらいだけにつかまり立ちするエルちゃんに共感の涙を流す

 一方でソラの方も、「ヒーロー」という「理想」に向かって飛翔しようともがいて生きてきました。

 想定外にツバサのエルちゃんの部屋への侵入を許してしまったソラは、ちょっと病的な印象もあるくらいに、学校を休んでエルちゃんの番をします。

 そんなソラの様子をヨヨさんが形容した言葉が、「怖くなったのね」です。

 もちろん、表面的にエルちゃんに危害が及ぶのが怖いという以上に、ここでは、ソラが未熟でまだまだ理想の「ヒーロー」にはなれていないことが自分自身に突きつけられるのが「怖い」というニュアンスです。

 なぜなら、もし理想の「ヒーロー」になれていないのだとしたら、この先もなれないのかもしれないのだとしたらそれはとても辛いことだから。

 「空を飛びたい」という「理想」を持ってしまったゆえに、仲間のプニバード族からは異端扱いされて笑われ、ハブられてきたツバサのように。

 ソラも、笑われたという描写こそなかったかもしれませんが、「ヒーロー」になるという「理想」にコミットしたがゆえに、同世代に距離を置かれて孤独であった点は描写されています。

 それは、とても辛いことだから。

 エルちゃんががんばってがんばってつかまり立ちに成功したところで、ソラが涙を流しながらこぼしている、


 「がんばったね。あきらめなかったね。エライね」


 という言葉は、エルちゃんにかけているというよりも、明らかにソラ自身に向かってかけている言葉です。

 がんばってがんばってがんばってきた自分も、いつか報われたい。そういった、魂の慟哭なのです。

 がんばってがんばってがんばって「理想」に向かうということについて。それに伴う辛さも含めて、ソラ、ツバサ、エルちゃんと「共感」「共鳴」が伝わっていきます。


●ソラとツバサの本質は「代償」的な何か問題がある「スカイランド」で「禁忌」に踏み出して世界の不都合を明らかにしてしまう志向性である

 そのような、「理想」を追うものには辛い思いもさせる「現実」の方。

 現在の「スカイランド」には何か問題があるのは、ほぼほぼ確かであるようです。

 「理想」を追うと笑われてしまう、ハブられてしまう、といった分かりやすいところも問題ではあるのですが、もっと遠景にも何かがあるようです。

 今回語られた、「大昔」のプニバード族の人間の姿になれるようになる代わりに空を飛ぶ能力を失う「代償」の契約もなんか怪しいですし。

 ソラが幼少期に踏み入ってしまった場所も、「近づいてはいけないと言われていた森」でした。何か、秘密がある。

 総じて、ソラにしろツバサにしろ、社会、「共同体」の「禁忌」に踏み出してしまう志向性なわけです。

 森に近づかれると、「スカイランド」にとって何かまずい。プニバード族なのに空を飛びたいとか言われると、「スカイランド」にとって、何かまずい。

 そっちを志向されてしまうと、何か世界にとって、「スカイランド」にとって不都合なことが明らかにされてしまう。

 ソラ・ハレワタールさんというキャラクターの核心は、「ヒーロー」を目指しているという点のみならず、そういう世界や「共同体」の「禁忌」に踏み込んでいってしまう志向性にあるのかもしれません。

 グッと具体的な話にしてリアルの方にも目を向けるなら、子供の頃の初代プリキュアを観ていて現在社会人になっているくらいの年齢の視聴者が、何か、自分の会社のまずい点に気がついている。

 ……だけど、そこに「理想」にのっとって踏み込んでしまうと、そこは(会社とか)「共同体」にとって「禁忌」的な事柄で、笑われたりハブられたりしてしまうかもしれない。みたいなシチェーションでしょうか。

 それでも、「初代(MaxHeart)」最終回の雪城ほのかさんの「心の中の宇宙の自由」にのっとって、そこに踏み入っていって自分の「本来性」を全うしようとするのは、「勇気」がいることです。

 総じて、「理想」に向かって「勇気」をもって踏み出していけるか、ということを扱っているエピソードであるということは言えそうです。


●問題がある共同体から冒険の旅に出て足りない何かを持ち帰るのは「神話」的には「英雄」の行為である

 逆にグッと抽象度を上げた話もしてみますと、「共同体」に何か問題・欠けているものがあって、英雄が「外」の世界へとその欠けたものを求めて旅に出て、最終的に冒険の果てにその欠けているものを「共同体」に持ち帰る……というのは、普遍的な「神話」の型だったりします。

 僕がよく引き合いに出している神話学者のキャンベルの概念における、「原型(アーキタイプ)」というやつですね。

 人類最古の物語と言われる『ギルガメッシュ叙事詩』では、ざっくりとは王であるギルガメッシュは自分の国に欠けているものを求めて、「外」の世界に旅立つ、そして最終的に冒険の果てに「いくつかの意味で」その欠けていたものを国に持ち帰ってくる。「共同体」はより調和したかたちに再生される……広く、人類の精神に根ざした普遍の物語の型の一つと言われていたりします。

 その意味で、ソラが「スカイランド」に欠けている何かを、「外」の世界の旅をとおして、最終的に「いくつかの意味で」「スカイランド」へと持ち帰り、「スカイランド」が再生されるという流れの物語が『ひろがるスカイ!プリキュア』で描かれる可能性はあると思うのでした。

 その場合、その「欠けているもの」を「共同体」に持ち帰る存在こそが、神話学的には「英雄」と呼ばれていたりします。

 本作をとおした「英雄」論、「ヒーロー」論が深まっていきそうな視点かもしれないと思うのでした。


●誰が為の「英雄」・それでも飛んでみせるツバサの姿でソラは救われる

 そうして、「ヒーロー」を目指した少女ソラと、「空を飛ぶ」ことを目指した少年ツバサは、いかようにして「理想」に向かって飛翔するのか。

 今話のラスト、空を飛ぼうと走り出すツバサの姿は、火事場の馬鹿力で飛んでみせたいつかの父と重なる動機を胸に秘めています。

 子供のため。赤ちゃん(エルちゃん)のため、という、ある種普遍的な動機からです。

 一方で、あるいはそれは「理想」を追うことで傷つきながらもがんばってきた、自分自身のため、そういう自分のような、全ての人たちのためでもありそうです。

 つまり、自分自身を救うため。

 次回予告、キュアウィングになって飛んでみせたツバサの姿を、ソラさんが瞳に映している、その表情がすごくイイ。

 ソラさん、本当に飛んでみせたツバサをとおして、自分自身も報われるんだろうな……。

 というわけで!

 先週の日曜日(19日)の、YouTube Liveでの「ひろプリと神話の話をするライブ配信」にお越し頂いた皆さま、本当にありがとうございました。

 先週配信の分は、アーカイブが残ってるので、タイミングが合った時によかったらどうぞです。最初の5分くらいは配信環境の準備などしつつ『まほプリ2(仮)』の雑談です(笑)。

 まだ慣れない感じでやっておりますが、『ひろプリ』の7話は『トロプリ』の16話・17話と重なる構造のお話だよね〜みたいな話をしておりました。

 ↓


『ひろがるスカイ!プリキュア』第7話の感想と神話のお話【お話中心お絵描き実験配信】/YouTube Live(アーカイブ)


 配信中に描いた図はこちら↓

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 相変わらずこれだけだとどういうプリキュア感想配信なんだという感じですが(汗)、今話の内容にも通じるような、神話における「鳥」とは「理想への飛翔」の象徴である。『ひろプリ』ではキュアウィングがになうとするなら、対立項となる敵幹部は……みたいな話(予想!?)なども語っておりました〜。

 YouTubeチャンネルも開設しましたので、チャンネル登録もぜひよろしくです。ほぼほぼ徒手空拳で配信の世界に飛び込んでみたカタチですが、まずはチャンネル登録者30人を目指して努力していく所存です!


『プリキュアの感想と神話のお話』/YouTubeチャンネル


 毎週日曜日の22:30〜23:10分に、その日の朝放映分の『ひろプリ』の感想をネタバレでお話しつつ、神話の話も絡めていく! というYouTube Live配信を定期的にやっております。(ラスト10分は予備時間で、実質30分配信です)

 本日(3月26日:日)も配信URLは時間(22時30分)になったらTwitterに投稿しますので、試聴のタイミングはTwitterの方をチェックしておいて頂けたらと思います。文章だけじゃなく、話してる相羽さんに興味があるゾという方もお気軽にどうぞ。本日夜にお会いしましょう!

・Twitterもやっておりますので、フォローしてやって頂けたら喜びます〜。↓



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→スカイミラージュ





→前回:『ひろがるスカイ!プリキュア』第7話の感想〜外からきたソラが学校という内に入る「境界領域」を扱っているキュアウィングエピソードへの布石っぽいお話へ
→次回:『ひろがるスカイ!プリキュア』第9話の感想〜エゴを手放すことに自棄がかぶりそうになったツバサにエルちゃんが「待った」をかけてくれる話へ
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