『ひろがるスカイ!プリキュア(公式サイト@東映/公式サイト@朝日放送)』第9話「勇気の翼、飛べキュアウィング!!」の感想です。
ネタバレ注意です。
●エゴを手放すことに自棄がかぶりそうになったツバサにエルちゃんが「待った」をかけてくれる話
前回のYouTube Live配信(こちら)でちょうど、「プリキュアに変身すること」をかけながら、人間がボーディサトヴァ(菩薩)の領域に変わっていくにはエゴを手放すことが必要というお話をしたのですが。
今回、まさにツバサのキュアウィングへの変身過程を追ってみると、「エゴを手放す」ところがかなりのキーポイントになっているのですね。
エルちゃんを浮力を高めて生かそうと、ツバサが自分でエルちゃんの加護(と言ってしまいますが)から手を放すところです。
ツバサの幼少期に、遊覧鳥から落ちたツバサを助けるために、エゴを手放して(控えめに言って死ぬかもしれないので)ツバサのために飛んでみせたツバサの父と同じあり方です。
この、「エゴを手放す」ということが、「食べ物100年分欲しい」とか「マイホーム欲しい」とか(笑)エゴを肥大させてエゴまみれなこと言ってるカバトンと対比させながら、浮かび上がるように描いている。
なのですが、今回とても良かったのが。
ツバサが自分から手を放すシーン。「エゴや執着を手放す」という意味合いではイイシーンではあるのですが、同時に自棄、控えめに言って自殺側のシーンでもあるわけです。
夢破れて、死ぬ人というのは現実にもいます。
前回の感想であげた例だと、何か自分が所属してる会社(ツバサだったら「スカイランド」に相当)に問題(プニバード族は飛ぶ能力を失う代償を払って人間の姿に変身できるようになったのは何故? 問題)があることを直覚している。だから、「飛ぶ」、つまり「理想を追う」ことで会社そのものを変えようということを目指すわけですが、力及ばず、夢叶わず、理想と現実のギャップに苦悩して、最後には自棄に至ってしまうという人はいるわけです。
そこに、エルちゃんが待ったをかけてくれる話なんですよ、今回は。
おまえ(ツバサ)、ひとりじゃないんだよ、と。私がいるよ、と。
子供の頃に観ていた『プリキュアシリーズ』で憧れたような、「ヒーロー」のような大人には、なれなかった? いやいや、とはいえ、私はそばにいるよと。
あの、落ちていきそうになるツバサをエルちゃんが謎パワーで必死でとどめているシーンの、エルちゃん語を僕が勝手に翻訳してみるなら(笑)、
「ツバサよ、エゴを手放し、執着を手放し他者に貢献しようとするあり方は尊いものでしょう。しかし、生の執着までは手放してはなりません。まだ、そっちに行ってはなりません。あなたは、いかに苦しくともまだこの現実世界にとどまり、戦うのです。私もそばにいますから」
みたいな感じですよ。
ツバサ自身が自棄にいきかけても、エルちゃんがツバサのことを諦めなかった。「支えになる存在」、それが「ヒーロー」という作品で、ツバサの支えになったのは、エルちゃん。
そんなエルちゃんをカバトンが笑ったところで、
「エルちゃんを笑うな」(夕凪ツバサ)
が最終的なキュアウィングへの変身のトリガー。
エルちゃんに、理想を追って笑われ続けてきた自分自身と、そして「ツバサのために飛ぶ」という無謀なことをやってみせた父をツバサは重ねているんですよ。
父に対して、なんでプニバード族飛べないんだよ、のらりと芸術家やってるんだよ、と、「飛びたい」という自分の夢の志向性との相克を感じながらも、同時に自分の「飛びたい」という夢の原点はあの日ツバサのために無謀にも飛んでくれた父の姿であり、ツバサは父を愛してもいる、というとても複雑で人間的な感情です。
『プリキュアシリーズ』でいう、「日常」的な感情です。
それは大事なものだから、笑わせはしない。なので、鳥だからとか男の子だからとかは「境界の彼方」へ。父への愛、(自棄とは逆の)自分自身への愛、それらを守ろうとしてくれたプリンセスエルのため、ツバサ君、キュアウィングへ変身です。
●「世界」=「歴史」=「エルちゃん」との和解を模索する旅の始まり
ほぼほぼ「スカイランド」に何か問題があるのは明らかであり、そもそも「プニバード族は飛ぶ能力を失う代償を払って人間の姿に変身できるようになった」という過去からの「呪い」めいたものがなければ、ツバサが自棄にいきかけることもなかったのですが。
そんなツバサを救ったのも、「スカイランド」の正統であろうプリンセスエルなんですよね。
この構図の意味しているところは、「歴史の『呪い』をプリンセス自らが解く」みたいなことなのかなと思います。
歴史、生まれてきた時から我々を包み込んでいるものは、何か問題があるのかもしれないけれど、同時に我々の「支え」になってくれ得るものでもある。
プリンセスが味方になってくれるなら、それほど心強いことはない。そのための、歴史の『呪い』を解くイニシエーション(儀式)としての、歴史の正統であるプリンセスエルと、歴史に懐疑を持って「飛ぼう」としたツバサとの、「プリンセスとナイト」の主従契約。
この「世界」には問題があるので、「理想」を追うこと、「飛ぼう」とすることで変えようと思っているが、同時に「世界」の正統的連続性の中で自分を生かしてくれたエルちゃんのことも守る、という、かなり大変そうなツバサ君の戦いが始まったのだった。
●ソラはツバサに重ねて自身の「ヒーロー」像の変更と「支え」による自分と世界との和解を予見する
「ツバサ君。がんばったね」(ソラ・ハレワタール)
前回の感想で書いたとおり、ソラとツバサは、
・「理想を追う」
・「その結果共同体からハブられてもがんばり続ける」
・「スカイランドの禁忌的なものに触れる志向性を持っている」
などの点が重ねて描かれているので、このセリフは、ツバサに言ったものでありつつ、ソラが自分自身に言ってるものでもあるといえます。
ソラさんは、作劇的に物語の途中でのいったんの破綻が確定している「ヒーロー」ですから(彼女の当初の「ヒーロー」像は、どこかで破れる、ないし大きな変更が迫られる可能性が高い)、その時に今話のツバサにとってのプリンセスエルに相当する誰かが、「支え」がソラにも現れる、という物語上の暗示にもなっていると感じます。
「苦行」の方向で、真の「ヒーロー」にはなれないので。どこかで、「支え」をうけとって次の視界の「ヒーロー」を目指し、「世界」との和解(リアルでいう、大人になってみたら現実なんてつらいことばかりだ! 的な心情との、一区切り、和解)の要素も入ってくるのが、ソラさんという主人公なのではないかと感じてきております。
というわけで!
先週の日曜日(26日)の、YouTube Liveでの「ひろプリと神話の話をするライブ配信」にお越し頂いた皆さま、本当にありがとうございました。
先週配信の分は、アーカイブが残ってるので、タイミングが合った時によかったらどうぞです。最初の5分くらいは配信環境の準備などしつつ、大人姿のキービジュアルが公開されたことに関する夢原のぞみさんにまつわる雑談です(笑)。
まだ慣れない感じでやっておりますが、キュアウィングの変身に関連して、「違う存在に変わる」、たとえば人間がボーディサトヴァ(菩薩)に変わるとは? みたいな話から現代の「生きる意味が分からない」問題に関する物語の処方箋の話など、色々話しておりました〜。
↓
●『ひろがるスカイ!プリキュア』第8話の感想と神話のお話【お話中心お絵描き実験配信】/YouTube Live(アーカイブ)
配信中に描いた図はこちら↓
YouTubeチャンネルへのチャンネル登録もぜひよろしくです。ほぼほぼ徒手空拳で配信の世界に飛び込んでみたカタチですが、まずはチャンネル登録者30人を目指して努力していく所存です!↓
●『プリキュアの感想と神話のお話』/YouTubeチャンネル
毎週日曜日の22:30〜23:10分に、その日の朝放映分の『ひろプリ』の感想をネタバレでお話しつつ、神話の話も絡めていく! というYouTube Live配信を定期的にやっております。(ラスト10分は予備時間で、実質30分配信です)
本日(4月2日:日)も配信URLは時間(22時30分)になったらTwitterに投稿しますので、試聴のタイミングはTwitterの方をチェックしておいて頂けたらと思います。文章だけじゃなく、話してる相羽さんに興味があるゾという方もお気軽にどうぞ。本日夜にお会いしましょう!
・Twitterもやっておりますので、フォローしてやって頂けたら喜びます〜。↓
『ひろがるスカイ!プリキュア』第1話の感想〜大人になったら末法の世になってたが、子供の頃のマクシム(自分との約束)を胸に虚構のヒーローが現実でもう一度立ち上がる - 少女創作ファンブログ―The Girlls Fiction Fan Blog(GFFB) https://t.co/XbNf8vYMQr …ブログ更新です。 #ひろプリ #precure
— 寂しいシロクマ(相羽裕司)/仙台市太白区 (@sabishirokuma) February 5, 2023
→『ひろがるスカイ!プリキュア』のBlu-rayが予約開始
→スカイミラージュ
→前回:『ひろがるスカイ!プリキュア』第8話の感想〜ソラとツバサが理想を追う中で禁忌に踏み入り辛い思いをするとしても、それでも飛ぶことを諦めない仲間であるといったお話へ
→次回:『ひろがるスカイ!プリキュア』第10話の感想〜当初理想として求めていたもの(ヤーキターイ)と違っても現実で次善の道を試行錯誤しているうちに本質の輝きと一致したりもするお話へ
→『ひろがるスカイ!プリキュア』感想の目次へ