『ひろがるスカイ!プリキュア(公式サイト@東映/公式サイト@朝日放送)』第12話「ツエェェェ!キュアスカイ対カバトン」の感想です。
ネタバレ注意です。
●ソラが子供の頃に迷い込んだ「迷宮」から解放され始める
また、「山」じゃん!(挨拶)
先週のYouTube Live配信(こちら)でもお話ししましたが、ソラ・ハレワタールさんという主人公は、子どもの頃に迷い込んだ「行ってはならないと言われていた森」という(神話的な意味での)「迷宮」に迷い込んでいる……という人物です。
「迷宮」で憧れのヒーローに助けられた経験から、彼女も「理想のヒーロー」を目指すのですが、その「ヒーロー」の求道の人生自体が、物語序盤の時点では何か「欠けた」感じがするもので、ソラさんは子どもの頃に迷い込んだ「迷宮」にまだ囚われ続けている。
その「迷宮」からソラさんが(ギリシャ神話でいう)「アリアドネの糸」をたどって「外」に出てくるまでが『ひろがるスカイ!プリキュア』という物語の主軸なのだ、というのが現時点での僕の解釈です。
ソラさんの「迷宮」に迷い込んでる感の最たるものが「他者性の拒絶」で、憧れのヒーローさんに視界の全てを奪われて全力でそっちを目指して、たとえば「友だち」とかが視界に入ってこない人生を送っていたのですが、そこは、第1クールで主に虹ヶ丘ましろさんという「友だち」との出会いで解消され始めています。
今話で描かれていた「他者性の拒絶」からの解放は、たとえば「山の主の技を素直に取り入れてみる」とか、「肩こり解消の滝行スポットなんだけど、まずは滝行やってみる」とかで描写されていたと思います。
別に「スカイランド神拳」にこだわってない、別にガチの神秘的なパワースポットとかにこだわっていない、いい意味でさまざまなこだわりから解放されて「外」に開かれていっているのは、ソラさんの成長の描写だと思います。そして、実際「山の主」の技も、「肩こり解消スポットでの滝行」も、実戦で役に立っている。
新社会人向け(20th作品として子どもの頃にプリキュアを観ていた大人向けにもつくられているという仮定)には、「遊び」の大事さを伝えているパートですよ。「仕事に全てをかける!(ヒーローを目指すのに全てをかける!)」で休日も仕事してるとかは、もう、やっぱり一昔前の「24時間働けますか」的な頃に世に広がっていた「迷宮」に迷い込んでる状態ですから。休日は、というか日々仕事以外の時間は「遊び」とか「休息」を大事にした方が、けっきょく仕事にも生きてきてトータルでイイ感じになったりしますから。
●カバトンとソラは「迷宮」に迷い込んで「強さ」を追求せずにはいられなかった同士だった
「他者性の拒絶」状態のままだったカバトン(アンダーグ帝国に友だちとかいない)は、そこから解放されて他者、ましろやツバサの応援を受け取れるソラに敗北するかたちとなるのですが、今話でよりはっきりとしてきたのは、カバトンも「迷宮」に迷い込んでいるタイプのキャラクターで、なんだか自分の本来性とは違うかたちで「強さ」を求める人生を生きざるを得なかった人物としてソラと重ねて描かれているということです。
ソラさんが迷い込んでる(物語論的な意味での)「迷宮」が何なのかはまだ奥行きがありそうですが、カバトンさんが迷い込んでいた「迷宮」は、いわゆる「新自由主義」の「迷宮」の方向でわかりやすいのじゃないかと思います。
「競争」が優位で弱いものは淘汰されるという世界システム(リアルでは、経済競争の側面も強い)の「迷宮」です。
その「迷宮」の中で、自分でも何が何だかわからないまま、ひたすら「強さ」を求めていた。それがカバトンさん。そんなカバトンさんを、敵(競争相手)で、敗北した弱者であるはずなのに、それまでのカバトンさんが囚われていた「迷宮」のルール(たぶん「新自由主義」的なもの)ではあり得ないカタチで、ソラさんも自分でわけがわからないまま助けてしまう。
カバトンさんにとっての「迷宮」を抜ける手がかりである「アリアドネの糸」、彼にとってのアリアドネがソラさんだった、という展開にはかなりグっとくるものがあったのでした。
●カバトンとソラ、二人のエゴ(こだわり)の手放しが描かれている
けっこう引き合いに出している、神話学者のジョーゼフ・キャンベルによれば、ざっくりとは、「アリアドネの糸」が見えていれば、「迷宮」の奥で怪物を殺すことになるのではなく、自分を殺すことになる、とされています。
自殺とかそういう意味ではなくて、いわゆる「エゴを手放す」感じなのだと思います。
今話の決闘、カバトンにとってはソラが、ソラにとってはカバトンが、「迷宮」の奥にいる「怪物」──ミノタウロスだったわけですが、ソラさんが(おそらくましろさんから受け取っていた)「アリアドネの糸」的なものを見せたので、カバトンさんもソラさんも「エゴを手放す」方に至っているのですね。
カバトンさんはそれまでのこだわり(エゴ)だった「強さ」のかたちに、ソラが今回垣間見せたような別な、より高次の「強さ」があることに気づき、ソラの方も、「憧れのヒーロー」さんの背中だけ的な「ヒーロー」とは違う、自分の中にある何だかわからないけどカバトンさんを助けてしまう気持ちの存在に気づきます。
二人とも世界が広がったっていうことなんで、本当『ひろがるスカイ!プリキュア』っていう作品タイトルの物語なんだな! と思ったのでした。
●カバトンさんの「死と再生」
というわけで、カバトンさん一回死んだような状態なので、「過去にはこだわらない」と、新しい「生」をスタート。
神話的にはもちろん、「死と再生」のモチーフです。
ソラさんの方でも何かが変わり始めているので、ダブル「死と再生」のエピソードです。
ただ、神話的には「死と再生」ですが、新社会人向けには、本当に厳しかったら退職もありだよ、というやんわりとしたメッセージですかね。
カバトンさん、明らかに会社(アンダーグ帝国)のために自分自身の命が危険になるような力を今回使っていましたから、ブラック企業に搾取されきって体壊す前に、退職もありだよ、っていう。
総じて、「苦行」的な「ヒーロー」像から「まいたの(「毎日楽しい」、「遊び」や「休息」もある)」的な「ヒーロー」像へって流れだと思います。
「まいたの」の概念については、最近読んだ本の中では久々に三回くらい繰り返し読んだ、こちらの『精神科医が教える毎日を楽しめる人の考え方』という本がおすすめです。
マジで、ブラック人生になる前に、「肩こり解消の滝行をあえてやってみる」方向で「遊び」も取り入れていくのが、これからの「ヒーロー」像になっていってほしいと思ったりするのでした〜。↓
というわけで!
先週の日曜日(16日)の、YouTube Liveでの「ひろプリと神話の話をするライブ配信」にお越し頂いた皆さま、本当にありがとうございました。
先週配信の分は、アーカイブが残ってるので、タイミングが合った時によかったらどうぞです。
まだ慣れない感じでやっておりますが、英雄が山/異界/迷宮といった場所に入り自身に欠けているものを持ち帰る神話の構造と、では第11話のツバサとあげはは? 物語縦軸でソラはどこに迷い込み何を持ち帰るのが『ひろプリ』の物語なのか? …といったことを基軸に、
第11話でツバサとあげはの山/異界/迷宮として機能している「らそ山」が、物語縦軸ではソラにとっての「子供の頃に迷い込んだ行ってはならないと言われていた森」に位置付け的に対応している、といった話をしております。
そして、神話的・シンボル的な意味で「迷宮」から抜け出す手がかりとなる「アリアドネの糸」。『ひろプリ』劇中では何なのか? 現実を生きる私たちにとっては何なのか?
気になる方は、タイミングが合った時に再生してみて頂けましたらと〜。
↓
●『ひろがるスカイ!プリキュア』第11話の感想と神話のお話〜ソラに「アリアドネの糸」を渡す存在としての虹ヶ丘ましろ/YouTube Live(アーカイブ)
配信中に描いた図はこちら↓
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●『プリキュアの感想と神話のお話』/YouTubeチャンネル
毎週日曜日の22:30〜23:10分に、その日の朝放映分の『ひろプリ』の感想をネタバレでお話しつつ、神話の話も絡めていく! というYouTube Live配信を定期的にやっております。(ラスト10分は予備時間で、実質30分配信です)
本日(4月23日:日)も配信URLは時間(22時30分)になったらTwitterに投稿しますので、試聴のタイミングはTwitterの方をチェックしておいて頂けたらと思います。文章だけじゃなく、話してる相羽さんに興味があるゾという方もお気軽にどうぞ。本日夜にお会いしましょう!
・Twitterもやっておりますので、フォローしてやって頂けたら喜びます〜。↓
『ひろがるスカイ!プリキュア』第1話の感想〜大人になったら末法の世になってたが、子供の頃のマクシム(自分との約束)を胸に虚構のヒーローが現実でもう一度立ち上がる - 少女創作ファンブログ―The Girlls Fiction Fan Blog(GFFB) https://t.co/XbNf8vYMQr …ブログ更新です。 #ひろプリ #precure
— 寂しいシロクマ(相羽裕司)/仙台市太白区 (@sabishirokuma) February 5, 2023
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→スカイミラージュ
→前回:『ひろがるスカイ!プリキュア』第11話の感想〜らそ山という擬似「迷宮」で聖あげはさんは「アリアドネの糸」を探している説
→次回:『ひろがるスカイ!プリキュア(ひろプリ)』第13話の感想〜母的なるものとの別れという第2クールの新たなる冒険への「召命」へ
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