相羽です。

 『ひろがるスカイ!プリキュア(公式サイト@東映公式サイト@朝日放送)』第23話「砕けた夢と、よみがえる力」の感想です。

 ネタバレ注意です。
 ◇◇◇

●条件を満たして自分の価値を証明できなかったとしても、最後に残った大事なあなたのために立ち止まらないということ

 「だってソラちゃんは、とっくの前からヒーローなんだから」(虹ヶ丘ましろ)

 おおむね、ましろさんからソラさんへの手紙の内容は、ソラさんが自分で考えていた「ヒーロー」の条件(これを満たすことができなかったから、「ヒーロー」にはなれなかったと今回心を折っている)に対して、そんな条件などないのだ、何の条件とかなく、ソラさんはましろさんにとっての「ヒーロー」なのだ、といった趣旨のものでした。

 カバトンさん、およびカバトンさんと鏡合わせの人物として描かれていたソラさんが迷い込んでいた「迷宮(主に神話的な解釈の意味での)」については、ソラさんとカバトンさんが戦う第12話の感想で詳しく書いていました。↓


参考:『ひろがるスカイ!プリキュア(ひろプリ)』第12話の感想〜カバトンとソラの最初の「死と再生」、ブラック人生から遊びもあるヒーロー道へ


>カバトンさんが迷い込んでいた「迷宮」は、いわゆる「新自由主義」の「迷宮」の方向でわかりやすいのじゃないかと思います。

>「競争」が優位で弱いものは淘汰されるという世界システム(リアルでは、経済競争の側面も強い)の「迷宮」です。

>その「迷宮」の中で、自分でも何が何だかわからないまま、ひたすら「強さ」を求めていた。それがカバトンさん。



 こういう世界観を無意識にでも抱えていると、「競争」で勝つための条件を満たすことで、自分はこんなにも有益である・価値がある、ということを世界や周囲に証明しようとする、殺伐とした生き方になってしまったりします。

 ソラさんが、今話で当初思い描いた「ヒーロー」の条件を満たせなかった(「ヒーローにはなれませんでした」)自分に無価値感を感じているのは、ソラさんもまだまだこういう殺伐とした生き方になっていく世界観で世界や自分を見ていたから。


「戦うのが怖くても逃げない」という条件を満たせたら「ヒーロー」になれて自分には価値があると証明できる!

「シャララ隊長も、仲間も、街の人たちも見捨てず救える私」という条件を満たせたら「ヒーロー」になれて自分には価値があると証明できる!


 頑張って、頑張って、自分は有用だと叫んで、自分が無価値だと感じたくないから自分の価値を証明し続けようとして生きていくのは、地獄です。

 ましろさんの手紙は、どんな条件を満たすとか関係なく、あなたは無条件で私の「ヒーロー」で大事な人だ、というものです。

 プリキュアにならなくていい。戦わなくていい。ソラさんが自分で自分の価値を証明するために、「ヒーロー」である条件のようなものとして設定していたものを、さらっと無視していくましろさんの言葉がよいです。


 「わたしのヒーローさん」(虹ヶ丘ましろ)


 プリキュアになれなくても。戦いから逃げてしまう弱さを持ったあなたでも。あなたは、わたしの「ヒーロー」。

 幼少期に「行ってはならないと言われていた森」に入ってしまい、シャララ隊長に助けられてから。そんな自分でも。助けてもらうに値する人間だったのだと。自分の価値を証明するためにシャララ隊長の背中を追いかける(前話の偽シャララ隊長の背中を追って彷徨うソラさんの描写を参照)「ヒーロー」を目指す「(神話解釈的な意味での)迷宮」にずっと迷い込んでいたソラさんに、「迷宮」の出口が、ちょっと見えたかもしれない。

 ギリシャ神話で、ミノタウロスの迷宮から英雄テセウスが抜け出す糸口となる「アリアドネの糸」。ソラさんにとってのアリアドネは、やはりましろさんだったのです。

 シャララ隊長ルートでは、限界があった。というか、ソラさんはそっちのルートでは進みきれない人間だった。

 条件付きの「ヒーロー像」から、無条件の「ヒーロー像」への変更。


 戦うのが「ヒーロー」。戦うのが怖くなった。

 シャララ隊長のフォロワーのような自分になれるのが「ヒーロー」。シャララ隊長を見捨ててしまった。

 仲間を裏切らないのが「ヒーロー」。仲間をおいて逃げてきてしまった。

 街の人たちを見捨てないのが「ヒーロー」。実家に逃げ帰ってきてしまった。

 プリキュアは「ヒーロー」なのか。もう「プリキュア」に変身もできない。


 そういう、あらゆる条件が果たせなくなった自分だとしても、無条件の自分自身に、最後に残ったものは何なのか?

 証明しなくては無価値だというのなら、特にもう自分は無価値でもイイのだ。ただ、自分が無価値とかどうでもイイから、残っている想いがある。


 「だけど行かなくちゃ」(ソラ・ハレワタール)


 のところで、思い出されるのは、全てましろさんとの思い出だけなのが泣けます。

 人が死ぬ時。どれだけ誰かを助けたとか、何か成功をおさめたとか、たくさんお金を稼いだとか、何も思い出さないという。思い出されるのは、大事な人と一緒に過ごした思い出だけ。


 「友だちが、待ってるから」(ソラ・ハレワタール)


 残ってるのは、それだけ。

 条件を満たして頑張って頑張って自分の価値を証明するような「ヒーロー」像から、ただ、生まれた時のような、死ぬ間際のような気持ちで(自分に価値があるのかとかは、そんなにももうイイのだ)大事な人と一緒に進む「ヒーロー」像へ。

 何だか、当初はシャララ隊長を追って、むしろないがしろにしていた要素だったんだけど(修行に打ち込んで友だちとは距離をとっていた)、こっちが、自分の本質だったのか。

 ミラージュペンも新たなものがハートから生まれて、ここから、またやり直しだ!


 「夢はたぶん、一つきりじゃないんだ。たとえ見失っても、たとえ壊れても、それは何度だって生まれる」(シド・ハレワタール)


 子供の頃にプリキュアシリーズを観ていて、最近新社会人くらいになった視聴者の方へ。

 当初の理想のプリキュアめいた大人になれてなかったりしても、転職してもいいし、一回実家に帰ってもいいし、ここから別のルートに変えたっていい。

 第11話の「らそ山」もいろんなルートで登ってオッケーだった。途中でやり直してもオッケーだし、立ち止まってからまた再始動したってオッケーだし。

 とりあえず、生きろ。ソラさんにとってのましろさんのように、大事な人の顔が思い浮かぶのだとしたら。今は思い浮かばなくても、そういう人にこれから出会うかもしれない大事な自分のために、何をどうやり直しても、生きろ。

 ソラさんがシャララ隊長ルートからましろさんルートにルート変更したところで、逆説的に、シャララ隊長の言葉の意味も腑に落ちる。

 シャララ隊長も、自分のフォロワーになれみたいな意味であの言葉をソラさんに残したんじゃなかったんだな。

 お前は、お前なりの「ヒーロー」になれ、くらいの意味だったんだな。

 その言葉を手帳に書くのを躊躇ってたソラさんは、無意識下で、シャララ隊長ルートが自分の本質的なルートじゃないのを警戒していたのかもしれない。

 今は、もうましろルート「ヒーロー」の方がしっくりくると分かったから、程よい距離でシャララ隊長の言葉を叫ぶことができる。


 「立ち止まるな、ヒーローガール!」(ソラ・ハレワタール)


 ルート変更してでも何でも、一つの夢が砕け散っても何でも、生きて進むということ。

 ソラさんを(シャララ隊長のフォロワーのようになれと)制約する言葉ではなく、自由へと解放する言葉だったんだ。

 自分で条件を設定して条件を満たせなかったと自身に無価値感を感じる不自由さの中にいたソラさんが、ここから、どうとでも生きると心の自由を取り戻して空から現れるのが感動的です。

 空は、自由な感じがしますからね。

 というわけで!

 先週の日曜日(7月2日)の、YouTube Liveでの「ひろプリと神話の話をするライブ配信」にお越し頂いた皆さま、本当にありがとうございました。

 先週配信の分は、アーカイブが残ってるので、タイミングが合った時によかったらどうぞです。

 ソラさんの今後について、シャララ隊長ルート(原点との再契約ルート)と、ましろさんルート(自己犠牲的なものを手放していくルート)の二つの可能性について話してみたり、

 シャララ隊長の謎めいた目撃談パートについて、ヨルバランド(西アフリカ)の神・エシュの神話などから、不可思議な目撃談という系統の神話についてのお話をしたりしました〜。

 気になる方は、タイミングが合った時に再生してみて頂けましたらと〜。

 ↓


『ひろがるスカイ!プリキュア(ひろプリ)』第22話の感想と神話のお話〜Ifソラ・ハレワタールとしてのシャララ隊長と、不可思議な目撃談という神話と/YouTube Live(アーカイブ)


 配信中に描いた図はこちら↓

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 YouTubeチャンネルへのチャンネル登録もぜひよろしくです。ほぼほぼ徒手空拳で配信の世界に飛び込んでみたカタチですが、まずはチャンネル登録者30人を目指して努力していく所存です!


『プリキュアの感想と神話のお話』/YouTubeチャンネル


 毎週日曜日の20:00〜20:40分(時間が変わったので注意!)に、その日の朝放映分の『ひろプリ』の感想をネタバレでお話しつつ、神話の話も絡めていく! というYouTube Live配信を定期的にやっております。(ラスト10分は予備時間で、実質30分配信です)

 本日(7月9日:日)も配信URLは時間(20時00分)になったらTwitterに投稿しますので、試聴のタイミングはTwitterの方をチェックしておいて頂けたらと思います。文章だけじゃなく、話してる相羽さんに興味があるゾという方もお気軽にどうぞ。本日夜にお会いしましょう!

・Twitterもやっておりますので、フォローしてやって頂けたら喜びます〜。↓



→スカイミラージュ



→前回:『ひろがるスカイ!プリキュア(ひろプリ)』第22話の感想〜「迷宮」の奥のミノタウロスとしてのシャララ隊長と怪物を殺さない神話的な方法へ
→次回:『ひろがるスカイ!プリキュア』第36話の感想〜どこか自分自身への無価値感がきっかけだったキャラクターたちが少しずつ自由になって他者へと開かれていくへ
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